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145年前から生き残り続ける「湘南唯一の酒蔵」が大人気な理由

145年前から生き残り続ける「湘南唯一の酒蔵」が大人気な理由

ひと昔前までは「手軽ではない」「年配が飲む」といったイメージを持たれていた日本酒ですが、段々と酔うためのお酒ではなく、味わうための日本酒が普及するようになってきました。数年前には安倍総理がオバマ大統領に獺祭をプレゼントしたことから一躍有名になり、居酒屋チェーン店でも日本酒が並ぶようにも。

そして、新潟県や山梨県といった地方では日本酒を作るための気候にも恵まれ、美味しいお酒が多く作られていたり、「大関」「白鶴」を生産する大手酒造メーカーがある兵庫県が日本酒としてのイメージが強くなっています。

しかし、日本酒はそういった地域に限られて作られているわけではありません。東京からほど近い湘南という土地に、知られざる銘酒があることをご存知でしょうか?

日本酒に必要な水や米のイメージがない湘南という土地で、日本酒なんて作ってるの?と、思うのも無理はありません。

そんな日本酒とは無縁とも思える場所に、湘南を代表するお酒を作り続けている熊澤酒造があります。

145年続く酒蔵

渋谷から湘南新宿ラインで電車に揺られること1時間。そこから乗り継ぎ茅ヶ崎駅から相模線で少し北に進んだところにある香川駅に到着。駅前にはコンビニすらなく、あるのは小さな書店と商店のみ。少し歩いたところにヤマザキストアをやっと発見するくらい。のどかで静かな住宅地の中に湘南唯一の酒蔵、熊澤酒造はあります。

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明治5年に創業され現在に至るまで、熊澤酒造では「天青」をはじめとした日本酒や、味も香りも多種多様な「湘南ビール」の製造をしています。

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入口は一見欧州の庭園のようですが、実は敷地内の建物ほとんどが古い日本建築物を移築して作り上げられているという、ちょっと独特の空間です。

敷地の奥に進んでいくと日本酒独特のお酒の香りが漂い、敷地内には日本酒の直売所だけではなく、四季折々の食材を使用した料理を提供する和食料亭やイタリアンレストラン、さらにはベーカリーから雑貨店まで併設されています。

「MOKICHI TRATTORIA」

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天井まで木組みが伸びる店内は、京都の清水寺を想起させます。この建物はなんと築450年の古民家を1度解体して移動させ組み直したものだそう。

平日の昼間にもかかわらず、店内はお客さんで満席状態。いったいどんな魅力があって多くの人が足を運ぶのか、実際に食べてみました。

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「塩麹でマリネした仔牛の炭火焼き」Mokichiコース (3980円)

毎月変更する旬のコース料理を注文、メインで出てきた仔牛の炭火焼きでは日本酒を作る上ではなくてはならない麹を使った一品。塩麹によって牛肉が柔らかくなった絶品。

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「天青四酒利き比べ」(1400円)

酒造を訪れたのだから、色んな種類のお酒を楽しみたいという方におすすめでしょう。雑味がまったくない純米大吟醸の「雨過天青」から本醸造の「風露天青」まで味わうことができます。

「蔵元料理天青」

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「MOKICHI TRATTORIA」の他にも大正時代の酒蔵を改装して作った場所で日本酒に合う肴を食べながらお酒を飲むことができる店舗もあります。店内は酒蔵を元にしたということもあり、古い木材を使っているので建物ならではの暗く独特な雰囲気がありました。

「okeba」

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元々は酒樽の修理をするために使っていた倉庫を利用して、湘南地域の作家やアーティストの作品の展示、販売を行っています。

一見酒蔵とは関係ないようなものかもしれませんが、この他にもお酒と同じ発酵技術を活かしたベーカリーやケーキ屋まであるという。

この空間が人を引き寄せる力はいったい何なのでしょうか? 日本酒だけではない強みがここ、熊澤酒造にあることは間違いありません。では、いったいこの空間はどのようにして創造されてきたのでしょうか? 蔵元の熊澤茂吉さんにお話を伺いました。

6代目蔵元 熊澤 茂吉

茂吉さんは自社看板商品である「天青」に対して次のようなこだわりがあると語ります。

熊澤:湘南にはうち1軒しか造り酒屋がないので、観光土産などではなくて地域の人たちの誇りになるようなお酒作りをしたいという気持ちが原点にあります。湘南を象徴するようなお酒で地域の人が自慢できるようなお酒を意識しています。

地元、湘南らしさは酒造全体のテーマ

熊澤:東北の山奥にある酒蔵にはお客さんが近くにいないじゃないですか、そもそもお客さんが来る前提がないんです。であれば良いお酒を都心などの人がいるところに出荷していく必要があるので、営業マンがいなくてはいけない。うちの場合はお酒のイメージがない湘南という場所なので遠くに売ろうとすると不利なんですよ。東北のお酒と湘南のお酒を並べると、東北のお酒のほうが美味しそうって感じるのが普通なので。逆にうちの周りはお客さんがいっぱいいる所にあるので、周りの人達が気軽に来れる環境ができて営業部門をやめる代わりに営業部が直営店になったんです。うちのお酒を美味しく飲んでもらえるような料理を提供しながらブランドをイメージさせる空間でゆったり飲んでもらってファンになってもらう。そういう流れでできてきました。

絶えず移築増築を繰り返し進化し続ける酒蔵

印象的な施設も特定のコンセプトがあるわけではなく、少しずつ必要だと思った建物を追加しながら自然発生的に出来上がったというのも湘南の気風に合っているのかもしれません。

熊澤:個人的な趣味ですね。自分が蔵を継ぐ前にいろんな所を旅していたんですけど、日本だと商業施設とか商業空間ってだいたいどこもオーナーさんが有名な建築家に発注して、有名なフードプロデューサーがいて...みたいに全部パッケージされていて、流行に合わせて変えられていくのが僕は好きじゃなくて。海外に行くとオーナー自身の趣味嗜好の単純にその人の世界観で出来上がっている施設が多いんです。僕も代々湘南の酒蔵で生きているので、そういうのを良いなって思っていて、外部の知識を入れるよりは僕の個人的な感性を積み重ねていれば湘南らしい、酒蔵らしいものができるんじゃないかと思いやってきた蓄積です。

ちなみに元々湘南にあった他の酒造は、東海道線が通ったため線路周辺の商業施設に変化していき、最後に残ったのが熊澤酒造だったとのこと。

「湘南」という都会からちょっと離れ、なおかつ日本酒だけではない、お酒との関わりや魅力を発信しているこの場所だからこそ、都会から逃避した人が美味しいご飯と美味しいお酒を求めて訪れる空間になっていったのかもしれません。

GWはそんな空間で日本酒を味わってみてはいかがでしょうか?

熊澤酒造株式會社:http://www.kumazawa.jp/mokichi/

(文/城岡来奈、写真/神山拓生・城岡来奈・熊澤酒造)

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