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日本人だからこそ大切にしたい。理にかなった「一汁三菜」の考え方とは?

日本人だからこそ大切にしたい。理にかなった「一汁三菜」の考え方とは?

「食べ方は、人生や生活習慣、人柄までも映し出す鏡」なのです。

誰しも例外なく、生きる限りは毎日食べます。食べ方を美しく整えることは自己パフォーマンスを上げるだけでなく、自分自身を大切にし、人生を豊かに整える根幹です。(「はじめに」より)

『「食べ方」を美しく整える:仕事ができる人ほど大切にしたいこと』(小倉朋子著、実務教育出版)の著者は、こう主張しています。美しく凛とした食べ方の推進を目指して活動しているという、食の総合コンサルタント。そんな活動をベースとしたうえで指摘しているのは、「食べ方」が世界中で気にされているという事実なのだそうです。

いまやニューヨークでは箸を正しく持つことはエグゼクティブとしての指標のひとつであり、ハリウッドスターなども同様の価値観を持っているというのです。でも、なぜ「食べ方」が世界中で気にされているのでしょうか?

それは、食べることが唯一"人に見られて"社会性を映し出す本能だからです。また、生命維持のためだけでなく、文化、アート、知識、経済、政治、環境、コミュニケーション...多角的な要素も関係します。(「はじめに」より)

だとすればなおさら、「食べ方」を意識する必要がありそうです。きょうは第3章「一流のビジネスパーソンとして知っておきたい『食』の教養」から、和食の「一汁三菜」に関するいくつかの要点を抜き出してみたいと思います。

ハイパフォーマンスを生む一汁三菜

一汁三菜(いちじゅうさんさい)は、ご飯に合わせた和食の基盤となる食事形態。いうまでもなく、「1つの汁物に、3つのおかず類」という意味です。ご飯は明記されていませんが、必ずつくことが前提。これらが、1回分の食事となるわけです。会席や懐石も、この一汁三菜を基本として発展したものだとか。

三菜はメインディッシュの主菜に、副菜、さらに小さな惣菜の副々菜を指し、内容は献立ごとに変わるのが一般的。副々菜は、和え物や酢の物などの小鉢が多くなるそうです。主菜も刺身、焼き魚などの焼き物、天ぷらなどの揚げ物など、おおむね決まっているもの。そして副々菜と主菜の間に位置するのが副菜で、これが煮物などになるわけです。

最近は一汁三菜という言葉自体があまり使われないので、聞いたことのない人も少なくないはず。この点については著者も、聞いたことがあったとしても、それを意識して食べていない人のほうが多いのではないだろうかと記しています。また、和食には面倒だというイメージもあることも否定はできないでしょう。料理の品数分も食器を用意しなければならず、食べるときはそれぞれの食器を持ち上げなければならないなど、手間もあるわけです。

ただ実際のところ、一汁三菜は習慣づけるとそれほど面倒ではないと著者はいいます。それどころか、健康的な生活を送るために、この食事形態を活かすことができるというのです。

増えた体重を無理せず落とすためには栄養バランスを考えて食べる必要がありますが、ひとつひとつの食材や料理の適量、カロリーを覚えるのはなかなか困難。しかし一汁三菜を毎食意識することによって、栄養素の知識がなくとも最低限の栄養バランスが整いやすくなるというのです。

しかもこれは和食に限らず、洋食にも当てはまるのだと著者。たとえば朝食であれば、ご飯の代わりにトーストにして、味噌汁の代わりに牛乳やスープ、コーヒーなどにする。3つのおかず類はハムや卵などのタンパク質に、サラダやキノコ類、クルミなどのナッツ類と、チーズやヨーグルトなどのカルシウムを加えればOK。とにかく「毎回3種類のおかずや野菜を食べる」と決めるだけでいいということです。

昔、一汁三菜は身分の高い人だけの贅沢で、庶民は一汁二菜(または一菜)だったそうです。対して現代人は、食べすぎで栄養過多である反面、一種類の料理でお腹を膨らます傾向にあるもの。そのため、必要な栄養素が不足しがちであるわけです。そこで著者が勧めているのは、一品あたりの量を少なめにして応用を利かせたうえで、一汁三菜の品数を目安に食べるようにすること。つまり夕食を食べ過ぎたなら、朝食は少量にすればいいという考え方です。

一汁三菜を意識するだけで、日ごろから栄養バランスに敏感になれるといいます。また、日々の食事を気にかけることは、生活習慣のコンディションをあげることにもなるため、仕事力を引き上げることにもなるだろうと著者は記しています。(118ページより)

一汁三菜で心を整える

この項では、食器の「配膳位置」がクローズアップされています。最近では和食店のスタッフですら、「ご飯は左で、汁は右」という一汁三菜の配膳位置の基本を知らないことも。些細なことのようですが、しかし食事の決まりごとには、すべて理由があるものだというのです。

食器の場所と食べ方には連動性があるもの。ご飯は左手で食器を持って口に入れる頻度が最も高いので、手に取りやすい左手前に置くべき。そして、ご飯とセットで味噌汁を右手前に。汁物は奥に置くとこぼしやすいので、手前のほうがいいそうです。

間違えて中央に置かれることが多いメインディッシュの正式な位置は右奥です。刺身やてんぷら、焼き魚、煮魚がこれにあたります。なぜなら、この皿だけは一汁三菜で器を置いたまま食べるので、右手の箸を斜めに伸ばさずつまめるように右奥へ置くのです。さらに、手に持って食べる煮物などの副菜は左奥、中央に最も小さな食器の副々菜を置きます。(124ページより)

なお副々菜が中央であることは、日本人の思いやりの精神と関係しているのだそうです。副々菜は、香の物や酢の物など、地味で主役にはなりにくい惣菜。残す人も少なくありませんが、そこには野菜や豆類など体をアルカリ性に戻す手助けになる食材がよく使われているもの。そこで相手の健康を気遣い、食べ忘れられないように、お膳のなかでいちばん目立つ位置に置くというわけです。

そして、忘れてはいけないのが箸の場所。いちばん手前の位置に、箸先を左に向けて横一文字で置くのが正式な方法ですが、この置き方は日本だけのもので、他の箸食の国では特にこだわらないそうです。たしかに日本以外では縦置きも多く見られますが、これは片手で取りやすいため。

日本でもテーブルコーディネートのアレンジで縦や斜めに置かれることもあるものの、一汁三菜の定式はあくまで手前に横一文字(ただし、これはいろいろと調べた結果としての著者なりの結論だと但し書きがあります)。

たしかに、両手でていねいに箸を持ち上げる「三手で持つ」という所作も、縦置きでは不可能です。また、日本の食器は飯碗や煮物椀など高さのある器が多いため、手前での横置きは、口をつけて汚れた箸先を食器で隠して他人に見せない置き方なのだといいます。

日本の箸はもともと人間のためではなく、神様に供えるものを手づかみしないための神聖な道具でした。箸の向こうの神様の世界と、箸の手前の人間の世界を分かつ境界線という説もあります。箸を持ち上げることで神様の世界とつながり、箸を通して神様の食事をともにいただくという考え方です。(126ページより)

つまり、それだけ箸や食事を敬う心をもって食べていたということ。誇り高い食べ方は、誇り高い生き方をつくるということです。(123ページより)

日本人にしかできない口中調味

まずご飯を一口、飲み込む寸前に塩気のあるおかず類や味噌汁を入れ、口のなかで混ぜ合わせて味を調整するのが一汁三菜の食べ方。「口内調味」と呼ばれるこの食べ方ができるのは日本人だけだといわれており、著者も知り合いのフランス人から「だから日本人は世界でいちばん味覚が優れているんだ」といわれたことがあるそうです。

塩気のある食材を、味つけのないご飯と一緒に噛むと唾液が出ます。その結果、双方に含まれるでんぷん消化酵素のアミラーゼが出て、おかずの塩分である塩化ナトリウムをある程度緩和させるというのです。つまり、飲み込むときにはしょっぱさが多少薄れた状態で胃腸のなかに入るということ。

これは、フランス料理などではまったく考えられない食べ方。フレンチではスープ料理を飲むときはスープだけ、魚料理は魚だけ、肉料理は肉だけを食べるもの。パンを合わせることはあっても、あくまで「口直し」の役目。口内に残った肉の脂や匂いを取るためで、一汁三菜でいう主食の概念とは異なるわけです。

近年では口中調味ができない人も増えており、一汁三菜を出されても食べ方がわからず戸惑う子どももいるといいます。しかし一汁三菜を定位置に置くだけで食卓に秩序が生まれ、凛とした気持ちになれるものだと著者。そんな簡単な方法も、心を整えることに役立つということです。(127ページより)


こうした、なかなか知る機会がないとはいえ、ぜひ知っておきたいトピックス満載。また、ビジネススキルとしての「食べ方」に焦点を当てているという側面もあるため、持っておけばなにかと役立つことでしょう。

(印南敦史)

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