
敏腕ビジネスパーソンの仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回紹介するのは、いわゆる『街のでんきやさん』で、沖縄・名護市にあるパナソニックのお店「ごや電機」の2代目オーナー呉屋伸(ごや しん)さんのお話をうかがいました。
地域住民の家電にまつわるサポートを一手に引き受ける『街のでんきやさん』は、典型的なローカルビジネスのひとつ。地域にひもづいたビジネスを育む上で重要となるのは、コミュニティとのつながりです。沖縄生まれの呉屋さんは、地元で顔が広いだけでなく、創蓄連携のパナホームとして建てた自宅をショールームとして公開するなど、仕事とプライベートを上手に活用した仕事スタイルを実践しています。
大型量販店とは異なる、家電専門店だからこそ実現できるサービスとは、どのようなものなのでしょうか? お話を聞いてみました。
現在の職業:パナソニックの店「ごや電機」オーナー、家電ソムリエ
愛用仕事ツール:腰カバンに入った工具キット(充電ドライバーなど)

── ごや電機でのお仕事について教えてください。
家電製品の販売や設置、それから修理がメインですけど、力仕事や水回りの修理など、なんでもやりますよ。
たとえば、電球の交換などでお客様の家に行きますよね。すると沖縄では、「ちょっとタンスを動かすのを手伝ってくれない?」とか、「ポストを取り付けてくれない?」など、普通に頼まれるんですよ(笑)。それから、引っ越しのときにエアコンを移設したついでに引っ越し自体をお手伝いすることになるとか。パナソニック製以外の製品を修理してくれ、というお話もあります。一般的には別料金になるんでしょうけど、うちは量販店とは違うので、「いいですよ」と気軽に引き受けるのが通常です。
範囲は名護市のだいたい全域をカバーしていて、顧客は固定のリピーターが8割、新規が2割くらいです。個人のお客さんがメインですが、施設など公共法人からの依頼もあります。
── ビジネスをするうえで大切にしていることは?
ひとつは「迅速さ」。スピードですね。お客さんを待たせないことが、サービスをする上での基本です。もちろん、繁忙期は待たせてしまうこともあるのですが、いつも迅速に対応してくれるという信頼があるからこそ、忙しくて遅れてしまったことを納得していただけると感じています。あとは抽象的になりますが、「気持ち」です。まずお客さんの家に上がったら、玄関で靴をそろえることからスタートします。こういったことの積み重ねが信頼につながるんです。おかげさまで、僕を孫のようにかわいがってくれるお客さんから、仕事のあとに「ありがとう。ごはん食べて行きなさい」なんてお声がけいただくこともしょっちゅうです。── 沖縄ならではといった仕事はありますか?
沖縄では1シーズンに大型の台風が3、4回は来るので、その被害で壊れたテレビのアンテナやブースターなどの修理・交換の注文が一気に20件も重なることがあります。屋外の機器は雨風や塩害で傷みやすくて、台風に耐えられないことが多いです。

── 自分で建てたオール電化の家を展示場として公開することになった経緯は?
パナホームって、どのお宅にお邪魔しても室内が涼しくて快適というのが実感としてありました。また、魅力のひとつに耐震性も挙げられます。これまで、阪神、新潟中越、熊本での震災時での倒壊事例がゼロなんです。でもなぜ地震が少ない沖縄で、パナホームをお勧めするかといえば、一番の理由はエコ基準のZEH(ゼッチ)※においてパナホームが唯一、沖縄で等級をクリアしているからです。
※Net Zero Energy House。住まいの断熱性・省エネ性能を向上させ、太陽光発電などでエネルギーを創ることで、年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の収支をプラスマイナス・ゼロにする住宅を指す。
お客様からよく「HEMS(ヘムス)※ってなんですか?」と聞かれますが、「電力の見える化が義務化されるんですよ」「省エネになるんですよ」と答えても、あまりピンと来ない人が多かったんです。だから、自分の実際の生活スタイルを見せながら紹介することで、「蓄電しておくと非常時にどれぐらい電気を使えるか?」といった説明をしながらアドバイスする方がわかりやすいと考えました。
それから、とくにキッチンの設備はたくさんあるので、予算内でどの設備をどれだけ取り入れるか悩むお客様も多いんです。それに対しても、「うちはIHコンロにしましたけど、すごく便利ですよ」というふうに答えられるので、説得力があると考えています。
※Home Energy Management System。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム。家電や配電設備とつなぎ、使用量をモニター画面などで「見える化」したり、家電機器を「自動制御」したりできる。政府は2030年までに、すべての住まいにHEMSを設置することを目指している。
── お店を継いだ経緯は?
子どもの頃から父親に連れられて、冷蔵庫や洗濯機の配達とかのお手伝いをしながら育ったんです。地元の人に感謝され、親しまれる父のことはとても尊敬していて、地元の工業高校の電気科に進学しました。
当時は料理人や保育士なども考えましたし、高3のときに大学の推薦書を3つももらえたんです。でもそんな折、松下電器(現・パナソニック)の方が来て、後継者を育成する松下幸之助商学院のことを紹介されたのを機に、家業を継ぐ運びになりました。
── 松下幸之助商学院ではどんな学校生活を送りましたか?
全寮制の学校で10カ月間、松下幸之助さんの経営学を修めたのですが、入塾生は、北海道から沖縄、それから宮古島といった離島を含む全国の同志たち。そんな仲間たちと同じ釜のメシを食べながら寮生活する日々は、僕にとって本当に貴重でしたね。ともに寒稽古にも耐え、今でもお互い相談し合ったり、定期的に集まったりできる全国の『街のでんきやさん』のネットワークがあります。
── ご自身のどんなところがお仕事に向いていると考えていますか?
学生時代からのつながりを今でも大事にしていたり、子どものPTAの運営委員などを買って出たり、野球チームの父母会などに積極的に参加していたりして、あらゆるコミュニティと関わっていることでしょうか。
また、沖縄には「模合(もあい)」という金銭的な相互扶助のシステムがあって、僕はいろんなコミュニティの模合に参加しています。お金の貸し借りになるので、信頼関係がとても大切なのですが、そういうつきあいを積み重ねることも重要だと思っています。
仕事以外のそういう活動も忙しくて、年中家にいないと妻に愚痴られることも(笑)。つきあいが広いので、家族でどこかに出かけると誰かに話しかけられることが本当に多いですね。
『街のでんきやさん』としてはもちろん、一社会人、そして父親としてみんなに愛され、信頼されるには、そんなひとつひとつを積み上げることが重要なのではないでしょうか。
── 今でも役に立っている教えはありますか?
松下幸之助商学院で得たことで大きいのは、意外にも茶道や瞑想の教えでした。茶道については、扱う道具にも通じる教えです。道具を一式そろえ、大切にすること。これは何をするにも基本ですよね。瞑想については、今でも寝る前の日課になっています。1日のふりかえりをすることで、前向きな気持ちにリセットできるんですよ。野球を教えている子どもたちにも、道具を大切にすることと瞑想することを教えています。
それから、子どもの野球チームを通じて出会った親御さんから教わった「目配り・気配り・心配り」を徹底する、という教えにも感心しました。学校生活でも仕事でも、この3つは非常に肝心なことだと感じています。

── こだわりの仕事ツールは?
持ち歩いている工具キットです。充電ドライバーをはじめ、7つ道具がそろってないと、いい仕事はできませんから。ちゃんとした道具があることは、作業のスピードアップに直結します。道具がひとつ欠けているだけで、30分も違うことがあるんですよ。
あとは、販促ツールとしてのメディアやSNSのパワーを実感しています。ローカルラジオ「FMやんばる」のスポンサーをしているので、そのPR効果での問い合わせは多いですね。SNSではふだんの仕事の話に限らず「泡盛同好のつどい」といった遊び要素も多いんですが、リピーターさんが情報をシェアしてくれることも多いです。

呉屋さんがお客さんの家に出向き、外灯を交換する現場を見させていただきましたが、慣れた手つきで、ものの10分ほどで依頼は完了。これで仕事は終わりかと思いきや、おばあちゃんの「排水管の調子も悪いから見てくれない?」の声かけにすぐさま対応。その後、さらにコーヒーとおやつまでごちそうになり、知人や家族の近況を情報交換。仕事がスピーディだからこそ、コミュニケーションまでできる時間のゆとりが生まれるわけです。

おばあちゃんは、「困ったことがあったらすぐに呉屋さんに来てもらうの」と嬉しそうに言います。まるで本当の息子のようにおじいちゃん、おばあちゃんに頼られながら談笑する呉屋さん。
将来、多くの職がロボットにとって代わられるとも言われていますが、呉屋さんの仕事は、今後も唯一無二であることは間違いなさそうです。
パナソニックは、全国津々浦々に、呉屋さんのようなプロフェッショナルがいる「パナソニックのお店」を展開しています。家電をはじめ、家にまつわる相談事があるなら、近くの店舗を調べてみるとよいでしょう。
スーパーパナソニックショップ|パナソニック
(写真/佐古裕久、文/庄司真美)
ランキング
- 1
- 2
- 3
- 4
- 5