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「他人を引きずりおろそうとする人」の、意識の根底にあるもの

「他人を引きずりおろそうとする人」の、意識の根底にあるもの

心理学博士である『他人を引きずりおろすのに必死な人』(榎本博明著、SB新書)の著者は、他人を引きずり降ろそうとする人が増えたことについて、「はじめに」で次のように解説しています。

ひと言で言うならば、それだけ現状に不満をもつ人が多いからだ。

頑張れば給料が上がり、生活が向上していくのを実感できる時代ではなくなった。絶え間ない技術革新により、産業構造も危うくなり、年金や社会福祉にも暗雲が立ちこめている。

だれもが将来への不安を抱えている。(中略)

そこに込み上げてくるのが、他人を引きずりおろしたいという衝動だ。

そうした危険な衝動を抱える人に足をすくわれないためには、どんなことに気をつけるべきなのか。

他人を引きずりおろすのに必死な人たちの精神構造はいったいどうなっているのか。

他人を引きずりおろさずにはいられない衝動がうごめく社会を、どのように生き抜いて言ったらよいのか。そうした疑問に応えるべくまとめたのが、本書である。

(「はじめに」より)

きょうはそんな本書のなかから、インターネットがもたらした弊害についての考察がなされた第6章「スマホの長時間使用が『理性』を壊す ----病理を助長するネット社会に」に焦点を当ててみましょう。

ネットはなぜ人を攻撃的にするのか

著者はネット空間に攻撃的なやり取りが多い理由について、(妬みによる攻撃は昔からあったものの)「ネットの普及により、手軽に人を攻撃できる環境ができた」からだと分析しています。そしてその環境を形成するものは、2つあるのだそうです。

まず第一は、ネット上のやり取りでは相手を配慮する必要性が低いということ。対面の場合は、相手の傷ついた様子や腹を立てた様子、困った様子などが表情や声の調子で伝わってくるため、相手のことを配慮せざるを得ず、簡単に攻撃的なことは口にできないわけです。しかしネット上では相手の様子が伝わらないので、相手をそれほど意識せずにいいたいことをいいやすいということ。また、相手の反応にも時間差があるぶん、配慮が疎かになりやすいといいます。

ましてや有名人の炎上に便乗するとしたら、相手は直接顔を合わせることもない遠い存在。そのため、配慮に欠けた発信をしてしまいやすいということ。企業やお店の店員などを批判する場合も、なんのしがらみもないぶん、相手への配慮より「欲求不満の発散」のほうが優先されるわけです。

そして第二は、ネット上には「幻想的万能感」を持つ人が発信しているケースが多いという側面。以前は、不特定多数に対して発信できるのは、マスコミ関係者や専門家などに限られていました。ところがネット社会になり、その気になれば誰もが不特定多数に対して発信できるようになったのです。そして見るべきポイントは「不特定多数への発信は、社会的に大きな影響力を持つ」という事実。

いまは、ひとりの消費者の発信によって、企業が批判の渦に巻き込まれたり、店が経営の危機に追い込まれたりする時代。その結果、そうしたネットの威力を実感し、「自分は大きな影響力を行使できる」「自分はなんでもできる」といった幻想的万能感を持つ人たちが出てきたということです。

また、そうした人は「自己誇大感」を抱えているため、自分が絶対に正しいと思い込み、人の意見に耳を貸さない傾向があるとか。そのため反論されると、ムキになって応戦するわけです。自分を絶対だと思い込み、自分の優位を誇示したくて発信しているので、優位性が揺らぐようなことはあってはならないという立ち位置。だから、非難するつもりなどなく軽い気持ちで質問しただけでも、ケチをつけられた気持ちになって反撃してくるということ。(170ページより)

「ネット依存」ではないと断言できる?

これらはネット依存の弊害であるわけですが、「どんな人がネット依存といえるのか」がわからないという方も少なくないはず。あるいは、「自分は現実世界での人づきあいが苦手で、ネットを使う機会も多いが、ネット依存なのだろうか」と不安になった人もいるかもしれません。そこで著者は、他人にしろ自分にしろ、ネット依存かどうかを判断する目安として、チェックリストを示しています。

アメリカの心理学者キンバリー・ヤングが作成した「インターネット依存尺度20項目版」を東京大学大学院情報学環橋元研究室が生徒・学生向けに訳したものを、社会人にも当てはまるように著者が部分的に修正したのだそうです。それぞれの項目が自分にあてはまる程度を、次の5段階で評定するというもの。

5:いつもある

4:よくある

3:ときどきある

2:まれにある

1:まったくない

1. 気がつくと、思っていたより長時間ネットをしていることがある

2. ネットを長く利用していたために、家庭での役割や家事をおろそかにすることがある

3. 家族や友だちと過ごすよりも、ネットを利用したいと思うことがある

4. ネットで新しく知り合いをつくることがある

5. 周りの人からネットを利用する時間や回数について文句を言われたことがある

6. ネットをしている時間が長くて、学校や仕事の成績が下がっている

7. ネットが原因で、勉強や仕事の能率に悪影響が出る

8. 他にやらなければならないことがあっても、まず先にソーシャルメディア(LINE、Facebookなど)やメールをチェックすることがある

9. 人にネットで何をしているのか聞かれたとき、言い訳をしたり、隠そうとしたりすることがある

10. 日々の生活の問題から気をそらすために、ネットで時間を過ごすことがある

11. 気がつけば、また次のネット利用を楽しみにしていることがある

12. ネットのない生活は、退屈で、虚しく、わびしいだろうと不安に思うことがある

13. ネットをしている最中にだれかに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、言い返したりすることがある

14. 夜遅くまでネットをすることが原因で、睡眠時間が短くなっている

15. ネットをしていないときでも、ネットのことを考えてぼんやりしたり、ネットをしているところを空想したりすることがある

16. ネットをしているとき「あと数分だけ」と自分で言い訳していることがある

17. ネットをする時間や頻度を減らそうとしても、できないことがある

18. ネットをしている時間や回数を、人に隠そうとすることがある

19. だれかと外出するより、ネットを利用するほうを選ぶことがある

20. ネットをしているときは何ともないが、ネットをしていないときはイライラしたり、憂うつな気持ちになったりする

(196~197ページより)

この尺度の得点が70点以上だと、ネット依存的傾向が強いと診断されるのだそうです。40点以上69点以下だと、ネット依存的傾向は中程度。39点以下だと、ネット依存的傾向は弱いといいます。

ネットでの攻撃が現実生活での攻撃行動を促進

現実世界での人づきあいが苦手で、対人不安気味の人が、人づきあいを避けてネットに依存するということは、よく見られる事例なのだとか。しかしネット依存が身近な人間関係を希薄にしたり、攻撃性を高めるとしたら、人づきあいの苦手な人はますます現実世界に居場所を失っていくことになるでしょう。そう考えると、それはあまりよくないことであるはず。

そして、ここにはもうひとつ問題があるといいます。一般的に信じられているのとは逆に、攻撃性を発散することのストレス解消効果はほとんど見られないというのです。それどころか攻撃性の発散が癖になり、ますます攻撃行動を起こしやすくなることが、心理学の多くの研究にとって示されているのだそうです。だとすれば、日ごろの鬱憤晴らしにネット上で他人を攻撃している人が、それでスッキリしておとなしくなるどころか、さらに攻撃したくなるというのも納得できる話です。(198ページより)


ネット依存(と、それに伴う攻撃性)について、私たちは自分自身のことを傍観者的な位置から捉えがち。しかし必ずしもそうとはいい切れず、「他人を引きずりおろそうとする人」になる危険性は誰しもが持っているのかもしれません。だとすれば大切なのは、社会構造をも含め、「なぜ、そうなってしまうのか」を理解することなのではないでしょうか? そういう意味で、本書を読むことには大きな価値があるように思います。

(印南敦史)

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