『爆速3秒クッキングシリーズ』を作った川地哲史さんが語る「For the Peopleなコンテンツの作り方」クリエイティブ塾Vol. 4
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ライフハッカー[日本版]編集長の米田智彦が開催する「クリエイティブ塾」は、編集者としてのクリエイティブマインドを育成するワークショップです。今回は、クリエイティブディレクターの川地哲史さんをゲストに招き、今まで手がけてきた広告コンテンツを題材に、膨大なコンテンツが溢れる現代でも「ユーザーの目に止まるコンテンツの作り方」ついてお話していただきました。

2000年、広告代理店入社。SP〜クロスメディア〜コミュニケーションデザインを経て2011年からクリエイティブ局に配属となる。ドコモ「3秒クッキング」シリーズ、バンホーテンココア「MAMAMETAL」、JRA「JAPAN WORLD CUP」、などを手掛け、2016年のカンヌライオンズでは日本人初となるフィルムクラフトカテゴリーでの2年連続受賞を達成。カンヌライオンズゴールド、アドフェストグランデ、アドスターズグランプリ、電通広告賞、TCCファイナリストなど、国内外の数々の賞を受賞。さまざまな部署で培った経験を活かし、SP・デジタル・PR、すべてのスキルに関わりながらブランデッドエンターテイメントづくりに挑戦している。最近の仕事にYahoo! JAPAN「Smart Stretch 360」など。
To the PeopleなコンテンツからFor the Peopleなコンテンツへ

川地さんが制作した、バンホーテンココア「MAMAMETAL」。「母親の不満代弁ツール」を目指し、実際にFacebookなどで広く共感された。川地さんはこの作品で2016年、世界最大級の広告賞の1つである、カンヌライオンズのフィルムクラフトカテゴリーでブロンズを受賞。川地さんは2015年に『3秒クッキング 爆速エビフライ篇』でもゴールドを受賞しており、日本人初のフィルムクラフトカテゴリー2年連続受賞となった。
1. 「作り方」から作る
2015年にドコモのサービスの「速さ」を伝えるために制作された広告コンテンツ『3秒クッキング 爆速エビフライ篇』。誰も想像できない方法でエビフライが3秒で完成してしまう様子は必見。川地:1つ目のポイントは「作り方から作る」という方法です。それは言い方を換えると、単純に新しいものを作るということになると思います。新しいものにはみんな興味があるので、新しくて面白いものはそれだけで、みんなの役に立ちます。そして、「当たるかどうかわからないけれど、やったことがないことを試してみよう」というマインドで作ったのがドコモさんの『3秒クッキング エビフライ篇』です。

2. 「積極的未完成」を意識する

ツァイガルニック効果を応用し、わざと完成していない状態で世に出すことで人の気持ちを引きつけることができます。僕はこのテクニックを「積極的未完成」と呼んでいて、「どこか突っ込みたくなるよね」と感じられるような部分を用意しておきます。
米田:ネットコンテンツは突っ込まれてなんぼみたいなところがありますよね。川地:「突っ込みを含めて完成する」と言えばいいでしょうか。僕がとても興味深いなと思ったのは、自分が制作したコンテンツが一番完成されて見えるのは、みんなが突っ込んでくれるニコニコ動画上だということです。前作『爆速エビフライ篇』の最後で「次回は餃子です」と次回予告を出してしまったために、川地さんが実際に制作することになってしまった『3秒クッキング 爆速餃子篇』。香港映画風の演出など、突っ込みたくなる要素が満載。米田:『爆速餃子篇』の次回予告は「3秒ナポリタン」ですが、これも制作したのでしょうか?川地:次回作はなさそうということだったので、じゃあ絶対無理なものにしようと思ってナポリタンにしました。卵焼きも乗せてるし本当に無理です(笑)。3. 役に立つものを作る

『3秒クッキング』のあとに「ムーヴバンド」という活動量計の広告の仕事をしました。3秒クッキングでバズムービーをやっていたので、「次は使えるコンテンツを作りたいな」と思って、「カロリーって意外なとこで消費されてるんですよね。だから活動量計付けて生活してみませんか」といいう文脈に落とせそうだったので、「世界一カロリーを消費するホラームービー」を作ることに決めました。
米田:活動量計とホラームービーを結びつけるというのは、なかなか思いつかない手ですね。どういう風にしてそのアイデアは生まれたんですか?川地:カロリーについて調べていると、「ホラームービーを見ているときには緊張と弛緩で多くのカロリーを消費する」ということがわかりました。問題になっているジャンルのこと──今回の場合は活動量計なのでカロリーのこと──を知ろうと思って勉強していく中で出会ったことが使えたりしますね。2015年に公開された『カロリームービー』。映画『REC.』のように、断続的に登場人物がパニック状態になるような作品がもっともカロリーを消費するというリサーチを利用して制作された。川地:怖い映像を観たい人なんてそれほど多くないので、コンセプトがニュースになればいいかなと思っていました。実際、狙い通りにカロリーコンシャスな女子やYouTuberが視聴して痩せるのかどうか試してみてくれたり、タレントさんが待ち時間の間に別のタレントに勧めてくれたりしました。反応としては「怖くて観れねぇよ!」のような声がたくさんありましたが、そんな突っ込みも計算通りでした。4. 「正しい不真面目」を作る

4つ目のポイントは、「正しい不真面目を作る」ということ。僕は特別に真面目でも不真面目でもないのですが、仕事のために「不真面目になろう」としています。
実際に「正しい不真面目」を作ろうとしたのが日本中央競馬会(JRA)さんの「JAPAN WORLD CUP」というコンテンツです。
川地さんが手がけたJRA「JAPAN WORLD CUP」。ハリボテエレジー、バーニングビーフといった奇抜な名前と見た目の競走馬たちがレースに出場し、勝敗を競い合うムービー。回数を重ねるごとにJRAと制作側の間で企画会議が盛り上がった。川地:クライアントさんは広告に大金を出しているので、できあがってくる広告に対してとても真面目です。自分たちに伝えたいことがあって、「言わなくちゃならない」というマインドになりがちなので、「広告コンテンツを見る人の側」にはなかなか立てません。そのため、作る側がもっと見る側の人のことを考えて、クライアントさんが伝えたいことと見る側の人を結びつけていくことが大切です。その一方で、企画の面白さが理屈を越えて勝つときがあります。そんなときには「絶対に崩せないルール」が崩れてしまうんです。JRAさんで言えば、「絶対に落馬させてはいけない」といったルールですね。その瞬間にクライアントさんとクリエイターの共犯関係が成立し、「あとは自ずと面白いことになるな」と強く感じることができます。
5. 人間の本質×時流・潮流=新しいコンテンツ

今回のクリエイティブ塾では、一流の広告クリエイターによる「受け手のことを考えたコンテンツの作りのポイント」をうかがうことができました。ライフハッカーでは、今後も月に1〜2回ほどで更新される、クリエイティブ塾の内容をまとめて発信していきます。
(文・構成・写真/神山拓生)
神山拓生