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子どもが世界でいちばん幸せなオランダ。現地で子育てをする日本人の母親が語ったこと

子どもが世界でいちばん幸せなオランダ。現地で子育てをする日本人の母親が語ったこと

子育てはサポートではなく、共同作業

いづみさんは出産前・後は自宅でフルタイムの正社員として働き、現在は学生として大学院に通っています。産休は出産前1か月、出産後3か月で、現在は週4日9時から18時30まで子どもをデイケアに預けています。夫婦の年収によって政府からいくらか補助金が出るそうですが、デイケア料金は決して安くはなく、アムステルダムに住む他の友人夫婦の場合、母親の給料全てがデイケアに消えるので、働き続けることに疑問に感じ、今は仕事を辞めて子育てに専念しています。また、仕事をとりまく状況は厳しく、産休の3カ月を待たず職場復帰する女性も多いそうです。

「デイケアに子どもを迎えいくと、周りはほとんどパパですね」といづみさん。自営業のいづみさんの夫は、日ごろも子どもの世話をしていますが、いづみさんが勉強に集中できるよう、月曜日を休みにして、その日は全面に育児を引き受けていています。一方、幸子さんの夫はサラリーマンで、育休は6日間でした。短いですが、オランダでは日本のサラリーマンほど忙しくなく、定時に帰って授乳以外はすべて幸子さんと等しく引き受けているそうです。そんな夫の姿につい「ありがとう」と言ってしまうそうですが、「なぜ?」と返されるそう。幸子さんの夫にとって、妻を「サポート」ではなく、夫も妻と同等に育児をするのが当たり前だからです。

いづみさん・幸子さん夫婦のみならず、オランダではごく普通の光景だといっていいでしょう。お互いパートタイムで働いて、子育てに専念しているカップルもいます。サポートではなく、共同作業。そんな考えは、お父さん個人の考え方以前に、時間的余裕があること、そして夫婦子育てを前提とする社会風潮から生まれているのだと思います。前述したクラームゾルフも手伝ってお母さんの心にも余裕が生まれ、夫婦ともに子どもにしっかりと向き合えることが、その子の成長によい影響を与えるのだと思います。

「忙しい日本人なら、わざわざ口にだすまでもなく忘れてしまうであろうことも言葉にして共有するのがとてもうまい。子どもに無条件の肯定的関心を向ける余裕が親にありますね」と幸子さん。

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(左)ビーチに設けられた子どものための遊具。(右)お父さんも子どもと一緒になって全力で遊ぶ。

子どもがいる風景が当たり前の社会

現在、いづみさんの男の子は3歳、幸子さんの男の子はもうじき4歳、女の子は1歳。外へ出かけることも多く、先々で社会が子どもを歓迎していることを実感するそうです。「子どもを連れていけるところがたくさんあります。ちょっといいレストランでも塗り絵を用意してくれたり。バスや電車、ショップなどで迷惑がられることもなく、むしろ助けてくれたり、話しかけてくれたりします。近所にも小さな動物園、公園、森林などもあるので遊び場に困らないですね」「誘惑するものが少ないことも助かります。日本に帰ると子どもの目線にガチャガチャが置いてあったり、ジュースも自動販売機がそこかしこにあったりして、"買って、買って"になってしまう。オランダにいると、そういったものがないのがありがたい」といづみさん。幸子さんもバギーと一緒にトラムや電車に乗りこもうとすると、必ずどこからから助けの手がのびてくると言います。大人だけではなく、中学生や高校生も手を差し伸べてきて「赤ちゃんかわいいね、おめでとう!」と声をかけてくるそう。出産前、いづみさんは「なにかあったら電話してきて」と同じマンションに住むたくさんの隣人から電話番号をもらったそうです。

オランダでは子どもが生まれると玄関先や窓などにコウノトリをかたどったボードや飾りをつける習慣があります。赤ちゃんが生まれたので見に来てくださいというサインで、近所の人や友人が赤ちゃんを見にやってきます。また誕生を報告するカードを送ることもあります。赤ちゃんが生まれてしばらくは家に頻繁に人が出入りするそうで、ホストである両親は、遊びに来た人々にBeschuit met muisjes(ビスハウト・メット・マウシェス)というお菓子をふるまいます。ラスクに似た丸いお菓子にアニスシードを砂糖でコーティングしたスプリング(男の子なら青、女の子ならピンク)を散らしたものです。アニスには母乳の分泌を促進する効能があるといわれ、ネズミ(マウシェ)は、子だくさんの象徴。17世紀から続く習慣だそうです。

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ビスハウト・メット・マウシェス。女の子が生まれたらピンク、男の子は水色。新しいパパ・ママが用意して、訪ねてきた人にふるまう。

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レストランで。ウェイターは、親ではなく、子どもに「ご注文は?」と聞く。

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庭がある家では、夏になると、外にしつらえたテーブルで午後のひとときを過ごす。

いづみさんも、幸子さんもオランダで暮らす前は東京で仕事をしていました。大都市アムステルダムでさえ、18時にはたいていのショップは閉店するオランダでの生活は、退屈じゃないといえば嘘になるけれど、家族でのんびりと過ごせる時間はたっぷりあり、外に出ても人々が子どもに優しく、お金をかけずに遊ぶところもある。社会環境・制度が子育ての一翼を担っていることが、両親のストレスを和らげていることは間違いないようです。

「よい子」ではなく「その子らしく」

日本では学校でスクールカウンセラーとして勤務していた幸子さんから印象深い話を聞くことができました。児童・親からさまざまな相談にのってきた経験から、強く感じることがあるといいます。それは、日本では子どもは、よい子であること、周りに迷惑をかけないことが求められるということです。大人や社会から見たよい子がよいとされ、頭がよいと「優秀」とされ、そこから外れると「落ちこぼれ」扱いになる危険性がある。一方、オランダでは、その子らしさが尊重されます。大人や社会が形作る「よい子」の規範にはめるのではなく、幼くともひとりの人間から紡ぎだされる考えを尊重します。だから子どもが子どもらしくいられると幸子さん。とはいえ、「周囲に迷惑をかけないという考えは、一概に悪いこととは思いません。日本を旅行した外国人が日本人の対応が素晴らしいと感動するのも、そのような考えのもとに人々が行動しているからだと思います。手放すことができない日本の美徳だとも思います」。

子育てというのは、特に子どもが幼い頃は人の手を借りなくては成り立たないもの。それを周囲に迷惑をかける行為と捉えるのか。そもそも迷惑とは何を指すのか。オランダと日本では大きな違いがあるようです。

オランダで子育てに奮闘する2人から話を聞いて、子どもの幸福とは家族単体で成り立っているわけではなく、両親と子どもを囲む社会環境、制度などが深くかかわっていることがよくわかりました。さらに子育てを取り囲むインフラが整っていることで子どもに向き合う余裕が両親に生まれることも大きいと思います。自分をそのまま受け入れてくれる親・社会の中で育つことで、自信がつき、他者との関係を健全に築いていくことができる。そのような土台の上に「世界一幸福な子ども」が成り立っているのだと思います。

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写真提供:大塚いづみ、幸子ウルセム

著者プロフィール

水迫尚子(みずさこ・しょうこ)LinkedIn

出版社2社、1年のイギリス留学を経て、フリーランスの編集者・ライターとなる。編集者としては主に実用書、ライターとしては旅行雑誌/書籍に関わり、その他に企業のCSRの英文編集/チェッカーも行う。旅行媒体の編集者・ライターとして関わった主な書籍に『わがまま歩き 香港』『わがまま歩き マカオ』『わがまま歩き オランダ ベルギー ルクセンブルグ』がある。オランダの観光ガイド「ikganaar」、パン好きが高じて立ち上げた「オランダの茶色のパン」を運営している。


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