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素朴 vs. 洗練。 Appleのデザインが万能ではない理由

素朴 vs. 洗練。 Appleのデザインが万能ではない理由

過剰な情報は、集中力の減退を招く

セールスに対する本能的な反感に加え、わたしたちは、自分たちの気を競って惹きつけようとするものに、過剰にさらされるようになりました。

この10年間、世界の大半がオンラインで機能するようになり、メッセージが至る所でわたしたちを襲うようになりました。そして、これらのメッセージは、抜け目がありません。広告板であれば目をそらせばいいだけ。テレビやラジオであれば、スイッチを切ればいいだけ。でも、現在送られてくるメッセージは、わたしたちのコミュニケーションツールすべてとつながっています。そして、信頼している人々からも、届くのです。

もし、わたしたちが自分たちの送りたいメッセージの外観的な美しさにこだわりすぎれば、そのストーリーを受け取る人々の体験が、その分の被害を被るかもしれないのです。

Facebook、Twitter、Eメール、電話、ノートPC、タブレット。ニュースは、あらゆる方角から舞い込んできます。なぜなら、現在のメッセージは、細切れにネットワークを通してやってきて、安価で、効果的で、そして拡散しやすいものだからです。

この情報への過剰なまでのアクセスに対応するために、わたしたちには2つの選択肢があります。

すべてを消費するか(不可能ですが)、フィルターをかけるか(たとえば、多くのものに関心を払い過ぎるのをやめる)です。

すべてを消費することは不可能なので、現在わたしたちは、フィルタリングのプロになりつつあります。ごみは排除してしまいます。自分にはあまり関係がなさそうで、信頼性に欠けるようなものや、セールスのにおいが少しでもしてしまうものは何でも、フィルターで取り除いてしまうのです。

プラチナ・ディスクを連発しているRihannaは、こう言っています

わたしのファンは、どんなに遠くからでも、「ペテン」のにおいがわかる。彼らをだますことはできない。

実際わたしたちの脳は、現在の情報過多な状況に適応するために変化しています。

Microsoftがカナダで行った最近の研究によると、2000年以降15年間で、人々の集中力が続く時間が12秒間から8秒間へと減少しているというのです。これは、金魚が集中できる時間よりも短いといいます。

当然全身の疲労感が関係しているでしょう。わたしたちは、「ペテン」を見つけ出すエキスパートになるように強いられているのですから。

広告とマーケティングは、データが増えるとともに洗練・改善されてきましたが、それと同時にわたしたちのフィルタリングのスキルも向上しています。拮抗しているのです。

いわば軍備拡張競争のようなもの。クリエイターたちにとっては、これは負け戦となる運命のように思えるかもしれません。何を言おうとも、気にかけてもらえないのですから。

でも、実際はそうはなりません。簡単な解決方法があるからです。

あなたもすでに知っている、簡単な解決方法

友だちから、"hey lets catchup for coffee monday. you in?" (「ねえ、月曜にコーヒーでもどう? 来る?」)というEメールが届いたら、あなたはすぐに返事をするはずです。

このEメールは、あらゆるライティングの基本ルールをまったく無視しています。文の始めに大文字を使っていないし、句読法も無視。でも、あなたの気持ちをとらえることはできます。あなたは真っ先に返信を打つはずです。それはなぜでしょう?

第一の理由は、このメッセージは、あなたが信頼している人から送られたものだということです。でも、このメッセージの送り主を信頼していることに加え、そもそも人間が送り主である、という点も大きな理由です。そう、送り主は、機械ではないのです。

工夫された見出しも、グラフィックも、文章もないからこそ、安心できる。自分がカモにされることはない。少しの間でも、警戒心を緩めることができます。

人の心をとらえるのに、ビジュアル的美しさは必須ではないということを裏付ける事例は、数多く存在します。

1つめの例として、プラチナ・レコードを連発しているBeyonceの、YouTubeの公式チャンネル上でもっとも閲覧数の多いミュージック・ビデオは、「7/11」です。Beyonceのミュージック・ビデオの多くは、クオリティが高いものであるのに対し、「7/11」は低画質で撮影されたビデオです。しかし、ほかのどのBeyonceのミュージック・ビデオをよりも、人気があります。

もう1つの例として、Kelly Starrettの動画が挙げられます。Kelly Starrettは、心理学療法士及びトレーナーで、彼のフィットネスについての動画には、YouTubeで、もっとも繰り返し閲覧されているものがいくつもあります。 Starrettは、プロフェッショナル用の道具を使わず、携帯電話を使い、自分のガレージでビデオの大半を撮影しています。

Kellyのビデオには、彼の娘が偶然歩いているところが映り込んだり、編集上の「ミス」が残ったりしているものが、いくつもあります。

Kellyは、編集時にこういうものを削除できたはずですが、これらが残っているからこそ、わたしは、彼と自分が深くつながっているかのように感じることができます。これらの「ミス」は、Kellyが「人間」であり、ものを売りつけようとしているわけではないという印象を与えます。あたかも友人がガレージで何かを思いつき、わたしにチェックしてほしいと言って、動画を送ってきたかのような気持ちにさせるのです。

Kellyには子どもがいて、犬を飼っていて、彼のガレージは、いくぶんか散らかっています。彼は、わたしと同じように、あまりよくない画質のカメラで動画を撮影し、編集もできていません。わたしは彼に共感することができます。彼の動画は、クオリティが特別に高いわけでもないし、かっこいいショットがあるわけでもない。でも、わたしが今まで見た中で、もっとも優れたフィットネスのトレーニングが記録されているのです。そこには、ちゃんとした内容があります。だから、わたしはKellyを信用することができるのです。フィットネスのアドバイスがほしいときには、わたしは、真っ先にKellyの名前を検索します。Kellyが本を出したときには、その本を買いました。

おそらく、BeyonceやKellyがこういった映像のためにプロ仕様の設備を使えば、閲覧数も上昇したでしょう。でも、こういったありのままの形をとった動画が、彼らを魅力的に見せている1つの要素であることは間違いありません。こういった動画は、BeyonceとKellyを親しみやすい、わたしたちに身近な存在だと感じさせるのです。

コメディアンのLouis C.K.は、Eメールを使って、これと似たようなことをしています。Louisは、まさにあなたのために送っているような内容のEメールのニュース・レターを配信しています。スペリングのミスや、正しくない句読法が含まれており、でも、それが、彼のEメールの、1つの大切な要素となっているのです。読者として、わたしは文法上のミスなんて気にしません。むしろそれを好ましくすら思っています。Louisが友人に語りかけるように、ただ、わたしに話しかけてくれているような気持ちになるのです。

折に触れて、わたしたちはストーリーの中身のほうが、その見かけよりも重要であることを見てきました。

ミュージシャンのKanye Westも、Twitterでこのような発言をしています。

これは全部大文字にしないと! ルールはもう必要ない。自分のルールをつくるんだ。さて、新作「Pablo」の仕上げに戻らないと...

そうとも、このチャートには、スペルミスがいくつかある...みんなも知ってるように、それが俺なんでね...

人とのつながりを強めるために、「美しさ」は必ずしもなくてはならないものではありません。わたしたちが、その人が自分と向き合ってくれていると感じることができれば、その影響に対して、脳内で本能的に抗いたくなる衝動もおさまるのです。

あなたのメッセージに必要なのは、本物らしさです。他愛もないミスや、不完全な文章とともに、自分のメッセージをだれかと共有しようとする、あなた独自の方法が必要なのです。

本物らしさ=美しさではありません。

本物らしさは、その中身を表します。それは、「ペテン」は取り除かれているということです。

外観の美しさには、それなりの価値もありますが、あなたと相手の心を結ぶための、唯一の手段ではありません。

もし、あなたがだれかに自分を信頼してほしい、自分に注目してほしい、そして、もしかしたらいつか、自分からものを買ってほしいと思うのなら。ベストな方法は、メッセージから、すべてのバリアを取り払うことです。友だちに話しかけているような感じにするのです。あなたも1人の人間だというように。なぜなら、企業に対してよりも、自分と同じ人間に対してのほうが、人は親近感を抱けるからです。

本物らしさは、パワフルなものです。そして単純なものです。わたしたちは、どうすれば本物らしくなれるのかをすでに知っているはずです。

必要なのは、ただありのままであればOKなんだということをたまに思い出すこと。それは、ビジネスのときであってもそうです。実際、ビジネスでこそ、それが大事になってくるのです。

自分の会社について思いをめぐらし、会社を人間に例えて考えてみましょう。ブランドは、いかにも「会社」というより、人間らしさを感じられるもののほうがいいはずです。ウェブサイトであれ、Eメールであれ、ツイートであれ、そして広告であれ、すべては、人間がつくり手であるということが感じられるようにするべきです。実際にそうなのだから。

業界用語を使わなければならないと思うかもしれません。業界のリーダーらしさを出したほうがいいと思うかもしれませんし、事業主や投資家、顧客の気持ちを害するようなことを言わないように注意しなければならないと考えるかもしれません。

または、あるケースでは、あなたのコントロールできないような、法律や会社のポリシー上の理由から、本当に言いたいことを控えなければならないこともあるかもしれません。でも、自分の本当に言いたいことに限りなく近いことを言えれば、メッセージはそれだけ人間の心に届きやすいのです。

とはいっても、その仕事にふさわしい考え方、雰囲気に染まるように訓練されていれば、ビジネス臭をメッセージから拭い去るのがどれだけ難しいかも、わたしは知っています。そこで、わたしがまず提案したいのは、会社のどんなアナウンスも、Facebookのポストとして、ラフなドラフトを書き起こしてみるということです。

Facebookに直接メッセージを書き込むスタイルをとると、脳が動かされ、友だちに向けて書き込みをしているように、メッセージを書くことができます。

ときとして、メッセージを書くツールのせいで、仕事の関係者が自分たちよりも目上の存在だと思ってしまうがために、メッセージを書くときに過剰にかしこまってしまうことがあります。仕事で使用する専門ツールは、メッセージを書くあなたに巧妙に語りかけます。「おい、これは重要な文章だぞ。WordPressのバックエンドで書いているんだからな。気をつけろ」。この語りかけがあなたらしさを殺してしまうのです。

仕事の関係者を自分の目上の存在だと思い過ぎないようにしてください。友人や家族とコミュニケーションをとるツールを使って、重要なビジネスメッセージを書いてみてください。あなたらしさがあふれ出てくるはずです。

友達に自分の会社について説明するのも、世界に向けて説明するのも同じことです。もし他人のための文章だからと言って、フォーマルになり過ぎてしまうと、あなたはまるで別人のようになってしまい、自分らしさが失われてしまうのです。

わたしたちはみんな人間なのです。たとえスーツに身を包んでいたって。

何かを美しく見せることは悪いことではありません。でも、美しさは、その中身と常にペアでないといけません。なぜなら美しさだけでは不十分だからです。

そしてもし、外見をかっこよく見せることと、メッセージをもっと本物らしくすることのどちらかを選ばないといけないとしたら、メッセージの中身のほうを選ぶことです。

ストーリーなしでは、意味がありません。ストーリーなしには、あなたが何十万、何百万という大枚をはたいてそのストーリーをどんなにかっこよく見せようとしても、人々は退屈そうな顔をするだけでしょう。

不完全な姿を見せることは、完璧を装うよりもずっと効果的なのです。

現在は、いまだかつてないほど、ダイレクトなコミュニケーションが期待されています。Instagram、Twitter、そしてSnapchatのような新しいコミュニケーション・プラットフォームは、ありのままの、ダイレクトなコミュニケーションによりいっそうフォーカスしています。

世界がつながることで、悪いことが起こることもありますが、このつながりは、巨大なスケールで、あなたの信念を人々と共有し、きずなを生み出すための、ユニークなチャンスにもなるのです。あなたのストーリーを、それにふさわしい人にこんなにも簡単に届けられたことはいまだかつてなかったはずです。

以上のように、インパクトを生み出すには、見た目の美しさが必須だと思われがちですが、それはちがいます。それよりも、本物であることのほうがずっとパワフルなのです。本物であることは、親しみやすく、つながりを生み出すのです。

「ありのまま」であることは、あなたにも実現可能な、何よりも美しいものなのです。


Authenticity vs. Beauty: Why you don't need design like Apple | Crew blog
Mikael Cho(翻訳/鈴木統子)
Photo by Marthinshl/Flickr (CC BY 2.0).

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