
赤ちゃんに母乳をあげているけれど量が足りていないかも、と不安を感じている方に、知っていてほしいことがあります。もしかしたら、あなたに問題はないかもしれません。もし問題があるとしても、母親や友達のアドバイスよりも良い解決法があります。
学術誌『Pediatrics』の研究によると、母乳をあげている女性の6割が、自分がやめようと考えている時期より前に母乳をやめているそうです。もっともよくある理由が「母乳が足りていない」というものだそう。
なぜ「母乳が足りていない」と思うのか、その理由は2つあります。1つは、人間の赤ちゃんは、母乳が足りているかどうか伝えるのが下手だから。もう1つは、もし母乳の量が足りなくても、早い段階で対処すれば改善できているはずだからです。
母乳の量が足りている赤ちゃんは、順調に体重を増やし、だいたい1日に6回はおむつ替えが必要になります。でも、母乳は足りているのに「母乳が足りていないのかも」と勘違いしてしまうことも多々あります。代表的な事例は、下記のようなものです。
- 授乳をした直後に、また欲しがる
これはcluster feeding(授乳の直後にまた欲しがられ、授乳する行動)と言われている、夜によく起きる状態で、赤ちゃんの正常な行動です。
- 1日に何度も授乳する
頻回授乳も普通のことです。ミルクのほうが持ちがよいので、ミルクを与えられている赤ちゃんのほうが、母乳の赤ちゃんよりも、飲む回数が少ないのですが、母乳のママはそれを知らずに「母乳が足りていないのかも」と悩むことが多々あります。実は、赤ちゃんがお母さんの作る量より多くの母乳を欲しがると、授乳の回数が増え、それが体に「もっとミルクを作って」と告げるサインとなり、より多くの母乳が作れるようになります。頻回授乳は問題解決のための自然な行動なのです。
- 赤ちゃんの成長に伴い、胸の感覚も変わる
生後数週間は、授乳中に胸のはりを感じ、与えると減ったことがわかります。でも、その数か月後には胸のはりをそんなに感じなくなります。これを自分の母乳の量が減った、と感じる人がいますが、それは違います。
- 十分な母乳を搾乳できない、と悩む
ほとんどの人が、授乳のときよりも搾乳のときのほうが出せる量が少なくなりますが、日中働いていて、保育園に搾乳した母乳を渡さなければならず、その量が足りないといったケースでは、問題になります。でも、搾乳できる量=赤ちゃんが授乳で飲む量ではありません。
これまで紹介した事例は、いずれも問題ではありませんが、もし気になるようなら、専門機関などに相談してみましょう。女性の作る母乳は、需要に応じて供給できるようになっています。授乳(または搾乳)すればするほど、体は多くの母乳を作れるようになります。
逆に、母乳が足りないと思い込み、搾乳した母乳やミルクを哺乳瓶で与え始めると、体は「母乳を作らなくてもよいのだ」と理解し、作れる母乳の量が少なくなっていきます。こうして、母乳の量が少なくなってしまうのです。
食べ物、飲み物は答えではない
友達や家族、インターネットのサイトに載っている内容だと、母乳の悩みには、母乳の量が増える食べ物やハーブがオススメだと助言されることが多いです。
たとえば、伝統的に授乳をサポートしてきた、母乳のママ向けのお茶がいくつか販売されていますが、伝統的だからと言って、効き目があるわけではありません。
フェヌグリークというハーブは、そういったお茶に入っている成分の1つで、錠剤の形でも購入できます。腹痛や低血糖、汗がメープルシロップのような香りになる、などの副作用が出る場合もありますが、母乳によく効く、ほぼ安全な成分だと広く言われています。しかし、Academy of Breastfeeding Medicine(母乳のための薬アカデミー、以下ABM) によると、フェヌグリークが母乳に有効だという報告書はたった1つしか見つかっていないそうです。さらに、アメリカの授乳コンサルタント協会がおこなった実験によると、フェヌグリークのサプリメントを飲んでいた女性と飲まなかった女性に、母乳の量の違いはなかったそうです。どうやら、誰かの体験談から広まった話のようです。
「母乳に良いクッキー」も販売されており、手作り用のレシピも多く出回っています。1番よく目にするのは、ベースがオートミールで、かならず麻の実とビール酵母が入ったチョコチップ入りのクッキーです。おいしそうなクッキーなので、食べたい人を止めたりはしませんが、でもこれらの材料の裏付けは、うわさ話と科学的な仮説が入り混じったものです。たとえば、ビール酵母が入っているのは、母乳を作るときに使われるプロラクチン(黄体刺激ホルモン)を上昇させそうだからなどという理由です。よくできた説ですが、ABMによると、プロラクチンが増えても、母乳量が増えるわけではないそうです。
証拠が少ないにも関わらず、クッキーやお茶、オートミールなどの効力を疑わず、強く勧める女性もいます。でも、こういった話は、良い体験談を話す人のほうが多いものです。それに、クッキー以外の要素がもたらした効果も考える必要があります。たとえば、クッキーを食べた女性が授乳の回数を増やした場合でも、クッキーが母乳量を増やした、と考えているかもしれません。
「ということは、クッキーやお茶を試してはいけないの?」と思われるかもしれません。試してもよいですが、効果がないかもしれないものに、お金や時間をかけることになるという覚悟は、もっておいたほうがよいかもしれません。
母乳を増やすために、できること
クッキーの話が長くなりましたね。では、母乳で困っているときに、本当にすべきことは何でしょうか?
それはプロに相談することです。できれば認定を受け、どこをどう変えれば母乳が増えるか、きちんと根拠のあるアドバイスができる、母乳育児に関する相談員や、助産師のような方に相談するのが良いです。
母乳に関して誰に相談すべきかわからないときは、出産した病院やお世話になっている小児科、母乳相談ができる機関を取りまとめている団体に問い合わせてみましょう。
推定で5~15%の新米ママが、母乳を始める際にトラブルに見舞われますが、その理由は身体的なものか、すぐに授乳をスタートしなかったから、というものが多いそうです。そういった場合も、適切な指導を受ければ母乳をあげられるようになります。
母乳をあげられるようになり、赤ちゃんの体重が増え、おむつ替えが多いなら、お母さんの身体が母乳の作り方を知っている、という良いサインです。今後は、適切な指令を身体にしっかり送り、十分な量を作ることが重要です。
母乳に関する専門家からのアドバイスは、下記のような内容が多いです。
- できるだけ多く授乳しましょう(頻繁に授乳をすることで、母乳の量が増えます)。
- 赤ちゃんの飲む態勢を整えてあげましょう。そうすることで、赤ちゃんは多くの母乳が飲めるし、お母さんも痛みを感じません。
- 上手に搾乳をしましょう。搾乳のときにあまり量が出ないなら、もっと強く押したり、回数を増やしたりしてみてください。
最終手段として乳汁分泌促進物質(催乳薬)という薬の使用を勧められるかもしれません。しかし、ABMは、これの使用について、「母乳量を増やすけれど最終手段として使うように」と、くぎを刺しています。これは頻回授乳の代わりになる効果はなく、使われているのは、メトロクラミドとドンペリドンという胃腸薬で、まれですが、きつい副作用を起こすことがあります。
ということで、クッキーの効き目があったとしても、万が一に備えて相談先を調べておくのは、良い選択だと思います。相談に行けば、何が本当の問題かわかり、それを治すことができるかもしれません。ぜひ、ご検討ください。
Beth Skwarecki (原文/訳:曽我美穂)
Photo by Shutterstock.ランキング
- 1
- 2
- 3
- 4
- 5