「私は、いいや」ではもったいない。さらに住みやすくなっていくシェアハウス最新事情
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シェアハウスという暮らし方が定着して、すでに4〜5年立ちました。その間に、シェアハウスは多様化し、より多くのユーザーの趣味嗜好、生き方、働き方にマッチした物件が登場し始めています。「シェアハウス=入居の際のコスト安」というだけではなくて、シェアハウスというコミュニティに入りたいと思う人や、自分のライフスタイルを謳歌するためにある分野に特化したユニークなシェアハウスも数多く登場しています。そこで今回、「ニュー不動産展」というイベントでシェアハウス事業者たちのトークから、シェアハウスの現在・未来をお伝えしたいと思います。
普通の人が普通に住めるシェアハウスを広めたい

シェア住居の総合メディア「ひつじ不動産」を運営する株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表の北川大祐氏は、今のシェアハウスを取り巻くムードを次のように語っています。
北川:シェアハウスには、積極的で元気がいい人たちが集まっているというイメージがあるかと思います。起業家向けのハウスなどは特にそんなイメージに近い形態と言えるかもしれません。でも、シェアハウスに長く一番なじんでいるのは、すごく大人しい、"ふつうの人たち"だと思います。でも、元気のいいイメージでたくさん取り上げられた結果、最近、ふつうの人たちのなかには「いやー、私には無理かな」という感じで距離を取っている方が多いように見受けられるんですね。シェアハウスの専門メディアとしては、本来の「普通の人が普通に住めるシェアハウス」こそ広がってほしいと考えているのですが...。

45人が住むことができる大型シェアハウス。「ヒトと家具」をコンセプトとし、デザイン性溢れる個性豊かな家具が印象的。北川氏によれば「あくまで豊かな居住性を重視する打ち出しのため、比較的大人しい入居者の方が集まりやすいのでは。特別に活発なタイプが集まるというより、ごく一般的な感覚で普通に暮らされている方が多いだろうと思います」とのこと。見た目の印象だけでは実際の暮らしを計ることはできないようだ(写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産)
「シェアハウスは特殊な一部の人たちのもの」という感覚がまだまだ根強いのかもしれません。その一方で、ごくごく自然にシェアハウスに入居していく人たちも存在しているのです。
ごく自然に入居できるシェアハウスへ

一方、株式会社コプラスの露木圭氏は、ファミリー向けのシェアハウスを手がけています。今までにないタイプの人たちが入居を検討するようになってきているそうです。
露木:ファミリー向けシェアハウスには、「子どもが小学校を卒業するまで」というように、ある程度長いスパンで居住しようという方たちが入居されます。単身者向けのシェアハウスは、短期間で出て行く方が多いのですが。シングルペアレンツ向けのシェアハウスなどには"単身者向けシェアハウス卒業者"が、次のライフステージをみすえて、ファミリー向けシェアハウスがないのかと探しにやってくる例も見られますね。そうした人たちの新しい受け皿になってきています。
シェアハウスではありませんが、入居者が自由に使える共用部をシェアする「クルム浜田山」はシェア型住宅と呼べるかもしれません。ここには子どもが独立した夫婦が共有スペースに興味をもって入居を検討する例もありますね。「事務所をこういった物件に構えるのもおもしろいかも」という理由からか、仕事場としてやってくる人もいます。シェア型住宅への入居をより幅広い層が検討するようになってきているのです。「交流やイベントが大好き」という人向けというよりは、"ふつうの人"が"ふつうに"やってくるようになってきたという印象です。「子どもが生まれたので、いい物件を探していたら、シェアハウスもいいね」みたいな感じでやってくるんですよ。

露木氏が担当しているファミリー向けシェア型住宅。中庭や屋上菜園、コモンルームなど、1室ごとに用意していたものをシェアスペースとしているが、各戸は独立していて、シェアスペースを利用しなくても生活には支障がない。マンションをリノベーションしたもので、規模は16室ほど。菜園では定期的にワークショップが開催されている。入居者同士の顔が見える関係と安心感を大事にしているが、人間関係はそれほど濃いわけではない(写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産)。
今までと違う層が来ているというよりは、同じ層だとしても、ライフスタイルが変わってきているようです。事業者側の取り組みからは、今の自分の感じ方を素直に受け入れてくれるシェアハウスが見つかりやすくなってきている様子がうかがえます。
コミュニティにおける価値観の相性。人間関係はゆるやかなほうがうまくいく
価値観の相違が原因でトラブルが起こることもあるので、入居希望者だけでなく事業者サイドでも、価値観の相性には注意を払っています。露木氏は次のように語っています。
露木:ご紹介するときに、案内先のシェアハウスの生活をお見せするわけですが、そのときにものすごく神経質になる方は合わないようですね。こちらでノーと言わなくても、自然と考え直し始めることが多いです。子育てをしている方がいる物件に単身者が入居を検討する場合では、単身者の人柄のほうに気を使いますね。「子ども大好き! 抱きしめたいです」というスタンスよりは、「子どもがいても別に大丈夫です」くらいのほうがうまくいきます。
「来る者は拒まず」でやってしまうと、入ってからもめることがどうしても起きるので、「このシェアハウスはこういう考え方や価値観を大事にしています」というのは最初にご説明するようにしていますね。人によっては「あなたには合ってないかもしれないですね」ということもやんわり伝えなくてはいけないと判断する場合もあります。
「国際交流がしたいから」「友だちが欲しいから」といった需要を満たすのとはちがった配慮だと言えるでしょう。物件を探している人はもちろん、事業者も「普通に暮らせるムード」に敏感になってきています。
シェアハウスを出ても、つながりは続く

シェアハウスを提供する事業者からすると、長く住んでもらって稼働率が上がったほうがうれしいのは確かです。しかし、管理するシェアハウスから卒業したとしても、縁が切れたとは思わないと語ってくれたのは、株式会社リビタの土山広志氏です。
土山:次のライフステージへ進みたいと感じて、笑顔で出て行こうという人たちをサポートするのも大切だよね、という感覚が現場にはあります。シェアハウスを出たからといって、ほかの入居者や我々運営者との関係が終わるわけではないんですよ。今はSNSなどでゆるやかなつがなりを維持しやすいですから。里帰りのような感じで再訪される方も結構いらっしゃいますよ。

UR団地をリノベーションしたシェアハウス。東京・日野市、142室。リノベーション前にこの団地に住んでいたご高齢の方々が近所に住まわれ、シェアに住まう新住民や運営事業者との関係性が良好に保たれている。お花見や夏祭り、餅つきといった世代を超えて楽しめる日本古来の季節行事などが地域と共同で開催されている(写真提供:株式会社リビタ)。
私たちの仕事は入居者同士の交流促進といった側面もあれば、さまざまな動機でシェアに住まう多様な方々を、それぞれの生活が無理なく楽しく成立するための空間・設備への配慮や、規約の設定・モラル醸成への働きかけなどといった項目も地味ながら当然含まれます。日常価値と体験価値が高いレベルでバランスが取れていることが重要と考えています。
シェアハウスはさらに多様化する

東京急行電鉄株式会社の三渕卓氏は、使われなくなった社員寮のリノベーションを「まるごとサポート」という東急電鉄のリソースを使った、大規模なシェアハウス事業に取り組んでいます。三渕氏は今後のビジョンを次のように語っています。
三渕:「これからのシェア」を考えたときに、「どこに住むか」ではなく「誰と住むか」「どんな体験価値があるか」が大事なのだと思っています。これからのシェアを考えると、以下の6つのキーワードがあると思います。- 国際交流
- 地方創生・移住
- ファミリー・子育て
- 起業
- クリエーター
- 医療・健康・介護
コンセプトを組み合わせることで、得られる体験の幅は大きく広がります。もちろん、自分にとって高い体験価値を提供してくれるシェアハウスと出会える可能性も高くなっていくはずです。
シェアハウスってやっぱり楽しくなきゃいけないと思うんです。行政・地域・オーナーさんたちと一緒に、地域価値を高めるようなシェアハウスを楽しくやっていければな、と思っています。シェアハウスという暮らし方は変わり続けています。従来の需要にマッチした物件だけでなく、まだくみあげきれていないニーズにも応えられる物件を事業者は模索し続けています。「シェアハウス、今はいいや」と距離を置いている人も、もしかすると1人で暮らすよりも豊かな人間関係やコミュニティをシェアハウスで体験できるかもしれません。各シェアハウスには多種多様なコンセプトがあるので、興味をもった方はぜひ調べてみて、実際に足を運んでみてください。
(文/神山拓生、撮影/開發祐介)
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