
『健康に長生きしたければ1日1曲歌いなさい』(斎藤一郎、周東寛、EIMI、田才靖子著、日本音楽健康協会監修、アスコム)とは、なんとも奇抜なタイトルですが、かといってジョークではなさそうです。
その証拠に、著者には歯学、そして医学、脳科学、心理学を専門とする医師、ボイストレーナー、スタジオヴォーカリストと、それぞれ担当の異なる4人の専門家が迎えられています。とはいえ、根拠は理解しておきたいところ。そこで第2章「歌えば幸せホルモンが分泌する」から、その答えを引き出してみたいと思います。
なぜ歌うと長生きできるのか?
1.幸せホルモンが分泌して、ストレスから解放される歌うと、エンドルフィンやドーパミンなどのホルモンが分泌されるそうです。
2. 幸せホルモンが分泌して、免疫力が高まる歌うと分泌されるホルモンが、体内環境を改善。
3. ナチュラルハイを体験できる歌うと、大声ハイと音楽ハイを同時に体験できる。
4. ベータ波がアルファ波に変化する気持ちよく歌っているうちに脳波がベータ波からアルファ波に変化。
5. 人前で歌うと自己治癒力が高まる人前で歌うことは、心身の自己治癒力を高める表現方法のひとつ。
6. 性腺刺激ホルモンの分泌が活性化する感情豊かに歌うと、視床下部や脳下垂体が刺激される。
7. 回想体験と歌詞丸暗記で認知症を予防する丸暗記は脳細胞を刺激して、物忘れ現象を食い止める。
8. 女性特有の病気も改善する女性の脳の構造は男性より歌うことの効果が得られると考えられている。
9. 腹式発声は体幹筋トレーニングになるお腹を使って歌うと、体幹筋が鍛えられ、姿勢もよくなる。
10. 腹式発声は有酸素運動になる腹式発声は呼吸量が増えるため、ちょっとした有酸素運動になる。
11. 家族や仲間と心のつながりができる歌は、家族や仲間との交流を深める機会を与えてくれる。
(以上、67ページより)
これらが、歌うと長生きできる理由。若い人には関係のないことなども含まれますが、カラオケに行ったときのことを思い出してみれば、納得できる部分も多いのではないでしょうか?(66ページより)
歌えば脳が活性化する
歌うと脳が活性化するのは、気持ちよく歌っているうちに脳波がベータ波からアルファ波に変わり、心身がリラックスするから。歌っているとどんどん心地よくなるのは、このことと関係しているのだそうです。また、1曲5分間の3コーラスのなかで高揚とリラックスを繰り返すことになるため、脳波はベータ波とアルファ波で交互になります。これが、脳にとって、よい刺激になるのだそうです。
ところで人間の脳波は周波数によって分類され、数値が低い方から並べると「デルタ波」「シータ波」「アルファ波」「ベータ波」「ガンマ波」という順に。デルタ波とシータ波は眠っているときに発声する脳波で、アルファ波は、安静にしているとき、つまり心身の状態がもっともよいときに発声するもの。逆に興奮したり、緊張したりしているときや、なにかに集中しているときは、ベータ波やガンマ波のように周波数の高い脳波が発生している範囲が広くなるのだといいます。
つまり脳波がベータ波に片寄っている状態が続くと、興奮して血圧が上昇したり、疲れてしまうことになるわけです。どこかでアルファ波に変えなければストレスからは解放されませんが、歌を歌うことでそれを正常な状態に持っていけるという考え方です。ちなみにアルファ波は周波数によって3種類に細分化されますが、歌っているときに発生するのが、もっともリラックス状態にあるときの「ミドルアルファ波」なのだそうです。(78ページより)
人前で歌うことは自己治癒力を高める表現療法
歌うことは、音楽療法のひとつでもあると著者は記しています。音楽療法とは、第二次大戦時のアメリカで、戦争によって身体的、精神的に苦しんでいた兵士のために行われていたもの。音楽を流したり、兵士の前で音楽家が演奏したりしたところ、兵士の治癒が早まったことから研究が始まったのだとか。そして日本においても、音楽を聴くことの癒し効果や、楽器を演奏することによる行動療法的な効果が早くから認められたため、心療内科に導入され、多くの成果を上げてきたといいます。
たとえば埼玉医科大学短期大学が行った音楽療法に関する研究によれば、音楽のリズムは左脳に、音色とメロディは右脳に作用するそうです。そうして大脳の前方にある前頭葉の頂点や、大脳の側面にある側頭葉が刺激されるため、脳が活性化するというわけです。
さらに、音楽療法に期待できる効果がもうひとつ。それは、声を出して歌うことによる「表現療法的な効果」。表現療法とは、自分の内面をことばや絵、歌などで表現することを通じ、心身の自己治癒力を高めることを目的としているそうです。
ここで重要なポイントは、カラオケに行くときのシチュエーションです。「ひとカラ」も浸透してはいるようですが、現実問題としてカラオケには仲間や家族と一緒に行くことの方が多いはず。人前でしっかり声を出して歌うことが、表現方法としてとても効果があるというのです。(83ページより)
腹式呼吸なら歌うだけに体幹トレーニングに
そして、歌うことの健康効果をさらに高めるために身につけるべきが、「腹式発声」。お腹に手を当てたまま大きな声を出してみると、お腹がへこむのがわかりますが、これは腹式呼吸をしているから。つまり、こうしてお腹を使って声を出す方法が「腹式発声」なのです。シンプルではありますが、腹式発声で歌えるようになると、それだけで健康効果が高まるのだといいます。
腹式呼吸とは、息を吸うときに深く吸ってお腹をふくらませ、吐くときにゆっくり長く時間をかけてへこませる呼吸法。この方法で意識的に空気の出し入れをすると、横隔膜と腹筋が同時に働くことに。それだけでなく、お腹を支えている腹直筋やそのうえにある肋間筋、胸にある大胸筋など、呼吸器関連の筋肉も働くのだといいます。こうしてお腹を中心とした体幹という部分が鍛えられるため、姿勢がよくなり、健康を促進するということ。また、腹筋をつけるための筋トレをした人は、腹式呼吸が上手になり、歌もうまくなるそうです。
ただし日常生活における呼吸には男女差があり、男性と女性では、腹式呼吸に慣れるまでに時間差があるのだそうです。男性の場合は日中も腹式と胸式を使って呼吸していますが、女性は妊娠・出産のために大きな骨盤があるなど、男性とは骨格の構造が異なるもの。そんなこともあり、胸式で呼吸することが多いというのがその理由。いってみれば女性は腹式呼吸に慣れていないため、慣れるまでに時間がかかるということです。(92ページより)
腹式呼吸は有酸素運動になる
腹式呼吸で歌うことのもうひとつのメリットは、呼吸量が大幅に増えること。たとえば肺活量が3000~4000ccある人でも、腹式呼吸で歌わないときの呼吸量は800~1000cc程度。しかし腹式呼吸で歌うようになると、1.5倍以上になるというのです。これは、ちょっとした有酸素運動に匹敵するというのですから驚きです。
有酸素運動は体内の脂肪、特に内臓脂肪を燃焼します。内臓脂肪は生活習慣病の誘因になるといわれていますから、つまり生活習慣病の予防になるということ。そしてもちろん、ダイエット効果にも期待できることになります。腹式呼吸で1曲歌った場合、約20キロカロリー弱を燃焼することに。5曲歌えば100キロカロリー近く燃焼するということですが、これは自転車を20~25分こいだエネルギー消費量と同じ。さらにいえば、5曲連続して歌った場合、運動量は400メートル走に匹敵し、10曲なら1キロ走と同じ運動量に。こう考えただけでも、歌うことのダイエット効果は理解できます。(95ページより)
腹式発声は自律神経を整える
腹式発声には、血行促進、血糖値低下、血圧降下、中性脂肪低下、喘息治癒、めまい・のぼせの解消といった改善効果も認められるそうですが、特に効果があるのは自律神経失調症の改善。呼吸は本来、自律神経によって支配されているものなので、呼吸と自律神経は密接につながっているということ。
腹式発声は深い呼吸ですが、深い吸気は交感神経を刺激し、緊張作用をもたらすのだそうです。そして吸ったあとには声を出しながら息をより長く吐き出しますが、このときは副交感神経が働いて緩和作用がもたらされます。この繰り返しが、乱れた自律神経を整えてくれるというのです。著者は腹式発声しているときのお腹のなかの状態を胃カメラで観察したことがあるそうですが、食道、胃から十二指腸までが、発声に合わせて細かく震えていたそうです。
意外な気もしますが、腹式発声はうまく歌うためだけでなく、健康のためにも効果的だということなのでしょう。(98ページより)
冒頭で触れたとおり、ボイストレーニング法や歌唱法も図版とともに解説されているため、とても便利。健康のためにも、歌をよりうまく歌うためにも、きっと役立ってくれるはずです。
(印南敦史)
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