すべての社員がリモートワークの「WordPress.com」運営会社・Automattic社って? 唯一の日本在住スタッフ、高野直子さんに話を聞いた
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ライフハッカー[日本版]では新しい働き方の1つとして、「リモートワーク(在宅勤務)」についてこれまで何度か取り上げてきましたが、日本ではいまだほとんど浸透していないように思います。そこで今回は、日本国内でリモートワークを実践している「WordPress.com」の運営会社・Automattic社で働く高野直子さんにインタビューしました。
オープンソースのブログ、CMS(コンテンツマネジメントシステム)としてトップレベルの知名度を誇るWordPressですが、その創始者が運営しているAutomattic社についてはよく知らないという人が多いのではないでしょうか。すべての社員が特定のオフィスを持たず、世界60カ国以上に散らばってリモートで業務をこなすという日本ではまずないであろう勤務形態の同社について、詳しくお話をうかがいました。
「会議するから会おう」という発想がそもそもない


WordPress.comの管理画面。2005年にローンチし、一般ユーザーから
米田:WordPressはオープンソースのサービスですが、Automattic社はB to Bのビジネスでマネタイズしているんですか?高野: B to B、B to C 両方ですね。WordPressをベースにしたホスティングサービスを提供し、半分はニュースメディアなど法人向け、もう半分は一般ユーザーの方のアップグレードでマネタイズしています。また、個人ブログ向け有料サービスと、広告からの収入も一部あります。米田:Automattic社の創業者であるマットさんはどんな方ですか? 高野:最初に会ったのは2007年で、そのころはまだ20代前半でした。オープンソースということもありフワっとした感じの人かと思ったら、意外にビジネスやマーケティングについてよく考えている人だなという印象を受けました。いわゆる西海岸のスタートアップのギラギラ感はなくて、インテリ系の人という感じです。米田:マットさんは就職せずに起業されたんですか?高野:はい。大学を中退して、最初はアメリカのCNET社の中でWordPressを開発していましたが、そこで限界を感じて起業したようです。WordPressがつくられた2年後、今から10年前に会社を立ち上げて、しばらくは開発者が数人、ビジネスのパートナー1人という規模だったとのことです。今は全社員合わせて400人くらいです。米田:400人といっても、社員の国の数は相当多いのでは?高野:アメリカやカナダ、ヨーロッパが中心にはなりますが、最近はアジアも増えています。米田:英語圏以外で展開していくときも、やりとりはスカイプなどで行うことになると思いますが、現地の英語ができる人を探すんですか?高野:ブラジルであれば、ポルトガル語と英語ができるのが前提ですね。米田:しかし、日本に1人しか社員がいないというのは驚きです。アジア支部のようなものがあって、ある程度の人数の社員がいるイメージでした。結構前から日本語のサービスはありましたよね?高野:アジアには少し前まで数人しかいませんでした。日本はもともとオープンソース版WordPressのユーザーが数多くいるので、大きいイベントなどをやるとボランティアスタッフとして何十人も集まります。米田:リモートワークというものに僕が最初に触れたのは、「37signals」の本『REMOTE』を読んだ時でした。こういう会社が日本に増えればいいな思いつつ、なかなかそういう風にはならないな、というのも同時に感じています。アメリカはやはり国土が広いというのが大きいのでしょうか。高野:アメリカでフリーランスデザイナーをしているときは、ほとんどお客さんと会ったことがなかったです。ミシガンに住みながらニューヨークのお客さんの対応もしていました。WordPressはもともとオープンソースプロジェクトとしてはじまったので、社員を1カ所に集めることが物理的に不可能だったんです。だから、「会議するから会おう」というような発想がそもそもないんですよね。New York Postなどの大手メディア企業まで広く使用されている。
日本では定着しない? "自由な働き方"

WordPressができてから10数年経ちますが、最初はアメリカでは盛り上がりつつも日本での知名度はなく、日本語の情報が少なかったんです。他にやる人が誰もいなかったので、オンラインのドキュメンテーションを書くなど、コミュニティマネージャー的な役割を担うようになりました。
米田:高野さんご自身も、もともとオープンソースのような多くの人に開かれたカルチャーが好きだったんですか?高野:そうですね。でもオープンソースがなんなのか最初は知らなかったです(笑)。アメリカのカルチャーが好きで、やればやるだけ認めてもらえるとか、上下関係があまりないというのが自分に合っていると思いました。米田:その後日本に帰国するわけですが、東京に住まれてどのくらい経ちますか?高野:2011年の初めからなので、4年目になります。今は夫の仕事の関係で東京に住んでいますが、もし異動などがあればどこでもに住んでも大丈夫とは伝えています。米田:うらやましがる人も多そうですね。高野:片方が融通が利くといいですよね。転勤や引っ越しなど普通はあまり簡単にいかない場合が多いでしょうから。米田:オンラインの状態さえ確保できれば、世界中どこでも働けるというのは強いですね。高野:そうですね。だから私は逆に突拍子もないところに住んでみたいなと思ってます(笑)。今は子どもが小さいので前ほど自由ではないんですが、うちの会社は5年働くと3カ月休暇がとれるので、来年は普段行けないようなところに放浪してこようかと思っています。子育てしながら働ける環境
米田:1日何時間くらい仕事していますか?高野:子どもを送ったあと朝9時ごろにここのカフェに来て、17時前くらいまで仕事してまた子どもを迎えに行きます。時差があるので、子供が寝たあとにまた同僚やベンダーさんとやりとりをすることもあります。米田:Automattic社にはパパ、ママがたくさんいるそうですね。高野:そうなんです。若い人は逆に、他の会社の方が楽しそうだと言ってやめてしまうこともあります。みんなでワイワイ楽しくやりたい、という人には合わないかもしれません。家族や自分自身の時間を優先して働きたいという人の方が、メリットを感じて長続きする傾向にあります。米田:時間の融通が利く分、小さなお子さんがいても働きやすいですよね。比べて日本の女性の働き方というのはいまだ窮屈だなと感じます。高野さんは海外での経験がおありだったからだとは思いますが、自由な働き方ができていますね。高野:逆にそれが当たり前というか、向こうの企業で働いていた時は、ラッシュを避けるために早朝に来て16時くらいに帰ったりしている人もけっこういました(笑)。米田:なぜ日本の会社はそうならないんでしょう。ラッシュなのにみんなと同じ時間に来て同じ時間に帰るという。「みんなと同じ」というのが好きなのでしょうか。高野:もうそろそろ変わってもいいと思いますね。米田:そうですよね。大企業には無駄が多いと感じるそうですが、なぜですか?高野:デトロイトで働いていた広告代理店は1000人以上いる会社でしたが、社内政治とか部署同士のいがみ合いなどもあり、そういうことが面倒に感じていました。米田:日本の大企業にいて「無駄が多い」と感じるのはなんとなくわかりますが、アメリカの大企業にいてもそう感じるんですね。高野:同じようなところはあると思いますよ。米田:リモートワークの会社で社内政治は起こらないんですか?高野:少しはあるみたいですね。人間関係で悩んでやめる人もいるみたいです。米田:ネット上だけで、普段会わないからこそ起こるトラブルというのもあるんですかね。どんなトラブルがありますか?高野:たとえば、我が強い人がいてその人が嫌だとか。もちろん文化の違いもあるとは思いますが、癖が強い人は少なくないので、たまにトラブルはあるようです。米田:その中で、日本人である自分についてどう思いますか?高野:どっちのバランスもとりつつ、みたいな良くも悪くも中立になってしまうところがあります。米田:調整役ですね。高野:弱く出てしまうこともありますが、衝突せずに話を進めることができるというのは得ですね。グローバルに働くということ

人間関係が希薄になりがちなイメージのリモートワークですが、意外にも「一緒に働く人」を重視しているという高野さんでした。
後日ライフハッカーでは、Automattic社のCEO・マット・マレンウェッグ氏にもインタビューを行いました。近日中にその模様を公開しますので、乞うご期待です。
(聞き手/米田智彦、文・写真/開發祐介)
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