失業後に訪れる「悲しみの5段階」を乗り越える方法

あれは土曜日のことでした。飛行機が着陸し、旅先で週末をリラックスして過ごそうと思っていた矢先、ケータイに1通のメールが。それは、解雇通知でした。私は、隣に座るボーイフレンドにケータイを見せながら、笑うしかありませんでした。
「人生にはこんなこともあるわよね。きっとこれがベストだったのよ。さあ、旅を楽しみましょう」
状況を受け入れ、気丈にそう言えた、自分を褒めてあげました。でも、本当のところは、大好きな仕事を失ったという事実を、受け入れることなどできるはずもなかったのです。
多くの人は、悲劇や危機に直面するとき、「悲しみの5段階」を経験します。でも、その感じ方は人それぞれ。この5段階を定義した精神科医のエリザベス・キューブラー=ロスさんによると、これらの感情は、死や離婚だけでなく、失業にもあてはまると言います。
「悲しみの5段階」について知っておくだけでも、気持ちをいくらか紛らわせます。
「否認」段階では、振り返りの時間を
事実を受け入れられなかった私は、自分の身に降りかかった災難を信じようとしませんでした。母に「大丈夫?」と聞かれれば、「なぜ大丈夫じゃないと思うの?」なんて答え方をしていたのです。
「これは、幸運が形を変えて現れただけなのよ。だからきっと、もっと素晴らしくて高給の仕事が見つかるはず」
今思えば、あれは単なる強がりでしかありませんでした。ただ、仕事を失ったことを認められずにいただけなのです。
ほかにも、「きっと雇用主が考え直してくれるさ」という形の否認もあるでしょう。ドラマ『そりゃないぜ!? フレイジャー』に、まさにそれを扱ったエピソードがあります。フレイジャーが失業し、否認段階にいるとき、彼はそれを神の恵みだと考えました。なぜなら、ずっと書きたかったオペレッタを書く時間が得られたからです。米国化学会の論文に、否認の役割が書かれていました。
否認は、衝撃を和らげる働きをします。怒りなどの強い感情からあなたを守り、日常生活を送れるようにしてくれるのです。もし、失業を予想できていれば、これ以上ストレスのある状況で働かなくてよいことに安心するかもしれません。
仕事が無くなれば、多くの時間を趣味に充てることができます。雇用主が考え直すこともあるかもしれないし、最終的にはもっといい話が舞いこんでくるかもしれません。しかし、ポイントはそこではありません。大事なのは、この段階であなたは、失ったものを感情的に否認することで、自分を守ろうとしているということです。そして、否認は必要かもしれませんが、問題もあります。
たとえば、否認段階にあるときは、新しい仕事を探そうという気になりません。なぜなら、問題のすべてを認めようとしていないからです。もしそこから、金銭面の否認状態になってしまうと、収入が止まっているにもかかわらず、高価な食事や贅沢品への出費をやめられなくなるかもしれません。
心理学者のMelanie Greenberg博士は、この時期に重要なのは自己評価だと言います。自分の気持ちに正直になって、仕事を失った理由について考えを巡らせた方がいいでしょう。Greenberg博士は、心理学サイト「Psyhology Today」でこう述べています。
変化の第一歩は、認識することから。正面から問題に対峙することは必要です。ただし、24時間ずっと悩み続けないでください。そんなことをしても、気分が悪くなるだけです。自分の気持ちを把握しベストな対策を認識したら、さっさと気持ちを切り替えて、ポジティブなことに集中しましょう。
なお、研究で、問題について考えることや対策することをやめると、ストレス要因が増えることがわかっています(ストレス生成と呼ばれる現象)。たとえば、請求書の封筒を開けずにいると、取り立て屋からの電話がかかってくるという結末が待っているでしょう。
お金の話をすると、失業後は適切なお金の対応が必要です。非常用資金を構築したり、債権者に連絡したり、上手に助けを求めましょう。
また、この段階にいる人は、寡黙に過ごしがちです。私は、友達から「きっと大丈夫」と言われるのが嫌で、誰にも会わないようにしていました。心の中では、「これは私の問題で、彼らに面倒を押し付けたくない」と言い訳をしていましたが、実際は、事実を直視したくなかっただけでした。
しかし、失業中はどんどん外に出ることが大切です。人脈作りのイベントに参加したり、友達におすすめの仕事を教えてもらったり。あるいは、ボランティアをするのもいいでしょう。
「怒り」の段階に入ったら、ストレスを最小限に抑えよう
現実を理解できるようになると、仕事を失ったことに対する怒りが湧いてくるのが普通です。雇用主に対する怒り、かつての同僚に対する怒り、経済に対する怒り、自分に対する怒り。つまり、周囲のすべてに対する怒りがこみ上げてくるのです。キャリアサイト「The Ladders」によると、この段階では、サポートを求めると良いと言います。
あなたの苦しみを理解してくれる家族や友人の中に身を置きましょう。専門家によるカウンセリングや、宗教家による助言も役に立つかもしれません。地域の就職支援グループもたくさんあるはずです。それらを見つけて、参加してみてください。外に向けられた怒りが弱まると、次の段階に進むことができるでしょう。
ただし、噴き出したつもりの怒りが、バックファイアーにならないように、これらのサポートが実りあるものであるかどうか、確認しておく必要があります。
自分の気持ちを文字にするのも効果的です。私は失業中、日記を書くことでストレスを解消し、怒りの矛先が周囲の人たちに向かわないようにしていました。
経済的負担が事態を悪化させることもあります。後々ストレスを生じないよう、お金に関する判断は慎重にしましょう。たとえば、失業中に退職金口座からお金を借りたり、債権者を無視したりしないでください。また、借金地獄にも要注意。これらはすべて、ストレスを増やす原因であり、火に油を注ぐ結果になるだけです。
「取引」段階では、罪悪感を寄せ付けないで
取引段階にいるとき、私は確信しました。服装が良いものならば、世界は私に振り向いてくれるのだと。「私は、状況にふさわしい格好をしていない。ジーンズにTシャツで、仕事なんかもらえるはずがない」。そう思った私は、身なりを整えることでキャリアの問題が解決できると考えました。
コメディ番組『そりゃないぜ!? フレイジャー』で、フレイジャーが同じことをするエピソードがあります。ファンを支えることで、キャリアの問題が解決できるのだと思い込んだ彼は、「僕は悪いセレブだったんだ」という結論に至ります。もちろん、彼のファンと失業との間には、何の関係もありません。それは、私の服装が、クライアントの予算削減と無縁なのと同じこと(私は在宅で働いていました)でした。
自己改善は悪いことではありません。でも、方向性を間違えると、それが逆効果になることもあります。確かに、服装は重要かもしれませんが、だからといって、ワードローブに集中して時間を過ごすぐらいだったら、その時間を就職活動や人脈作りイベントに充てた方が良いと思います。
どの段階も同じことが言えますが、先に進むためにはこの取引段階を経験することが大事です。しかし、この段階にいる人は、自分に対してかなりつらく当たってしまうことが多く、自尊心に大きな影響を与えてしまいます。必要以上の罪悪感を抱えこんでしまうのです。就職関連サイト「CareerPlanner.com」では、自信を損ねないためのエクササイズを提案しています。これまでに経験したすべての仕事について、下記の3つの質問をしてみるのです。
- 何を得たのか、達成したのか、終わらせたのか。何を誇りに思っているのか。
- 自分について何を学んだのか。どんなスキルを習得したのか。
- 誰をどのように助けたのか。
ある程度答えが出たら、その中で誇れるものをいくつか選んで書き出してみましょう。1段落でもいいので、それについてのストーリーを書いてください。
これは、取引段階を乗り越えるのに、とても重要な役割を果たします。達成できたことに気持ちが向くため、罪悪感を抑えることができるのです。しかもその達成内容は、事実に基づくものです。
円満に退職したのであれば、元の上司や同僚に推薦状を書いてもらうのもいいでしょう。就職活動にも有効ですし、自信を高め、罪悪感を抑えることにもつながります。
あなたは完ぺきで、改善の余地がないと言っているわけではありません。でも、今は、自己改善が間違った方向に行かないように、現実的な選択肢の中から道を見つけていかねばなりません。
「抑うつ」段階では自分のケアに徹して
失業後の抑うつは一般的なことであり、取引段階の次に訪れます。この段階では、「自分には落ち込む権利がある」と考えることが有効です。
『The Worry Cure』の著者、Robert L. Leahy博士は、こう書いています。「悲劇を感じる権利を自分に認めることです。あなたは人間なのですから、不幸せを感じる権利があるのです」と。自身に、感情の存在する余地を与えると、大局的な視点で物事をとらえられるようになり、あなた自身とそのキャリアにとって役に立つ行動をとれるようになるでしょう。
私は、立ち直ろうと焦っていたため、なかなか自分の抑うつ段階を認めることができませんでした。対処もせず、もう乗り越えたのだと自らに言い聞かせていたのです。しかし、結局、抑うつ状態から抜け出すことはできませんでした。この段階は重要ではありますが、最悪な時期でもあります。では、これらを乗り越えるための方法をいくつか紹介しましょう。
ひとまず、習慣を決めて、規則正しく過ごすことが有効でした。なぜなら、習慣は人間の方向性と目的を定めてくれるからです。それを続けているうちに、一生懸命仕事を探せるようになりました。それから、働いていたときには時間がなくてできなかった趣味も習慣に取り入れたため、ちょっとした楽しみもできました。これらに取り組むことで、ようやく失敗し続けているような感覚を拭うことができたのです。
また、この段階では多くの人が運動量を増やします。運動は幸せのきっかけになり、ストレスを解消してくれるからでしょう。達成感や生産性を感じられることも、このような気持ちのときには重要です。
ボランティアも有効です。目的意識を持てると同時に、人脈にもつながります。経済誌『Forbes』によると、その目的意識は、必ずしも仕事と関係している必要はありません。
失業を自分の力不足や失敗のためだと思い込んでいる人は、ただ不運だっただけで、成長の機会、優先順位の再構築、回復力の強化につながると思っている人よりも、就職活動を再始動する可能性が低くなりがちです。自分を定義するのは自分自身であり、仕事や企業の判断ではありません。
失業という問題で気が立っているときは、それを個人的に考えてしまうのも仕方のないことです。ただし、自尊心を守るためにも、できるだけ状況を客観的にとらえる努力をしましょう。
「受容」にたどり着く
最終的には、受容の段階が訪れます。自分の身に振りかかったことを理解し、それを経験し乗り越えることで、自分らしさを取り戻せるようになります。ただし、受容することを自分に強要してはいけません。失業からすんなり受容に至れる人もいるでしょう。でも、求職サイト「Careerealism」によると、それは否認の1つにすぎない場合もあるそうです。
自分が本当に失業を乗り越えて受容段階にいるのかは、経験をどう語れるかでわかります。
- 客観的に:感情的な注釈をつけずに事実を明確に示すことができる
- 説明責任:失業に至った理由のうち自分が原因の部分を把握している
上記の視点から自らの経験を語れるなら、あなたは受容段階にいるでしょう。そうでない場合、失業の悲しみを乗り越えていないことは、必ず採用担当者(と就職関連で話す全員)に伝わってしまいます。
繰り返しますが、どの段階でも、急いではいけません。失業を受け入れるためには、湧き上がるあらゆる感情を経験することが大切です。それらは決して太刀打ちできないものではありません。ですから、それらに打ち負かされないように気をつけてください。
Kristin Wong(原文/訳:堀込泰三)
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