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相手の心に踏み込みすぎてはいけない。97歳のエッセイストが語る、人づきあいに大切なこと

相手の心に踏み込みすぎてはいけない。97歳のエッセイストが語る、人づきあいに大切なこと

ほんとうの贅沢』(吉沢久子著、あさ出版)の著者は、今年で97歳になるという家事評論家/エッセイスト。姑、夫と死別して以降、65歳からひとり暮らしを続けているのだそうです。本書は、そんな毎日の積み重ねから得た思いをつづった、心温まるエッセイ。

注目すべきポイントは、「自立」をテーマとしていることです。

老いてこそ、自分の足で立ちたい。

人によりかからず、自分らしくいたい。

自立したい。私はそうありたいのです。

(中略)

自分の頭で考え、考えたことを行動に移せる。

それが、自立ではないでしょうか。

(「はじめに」より)

この一節を目にしたとき、「これは年齢を重ねた著者にだけ当てはまるものではなく、すべての生活者にいえることではないだろうか」と感じました。そればかりか、本書に書かれていることのすべてが、現代を生きる人たちにとってのヒントとしても機能するのではないかとすら思います。

滋味豊かな本文のなかから、きょうは人づきあいについての考え方を述べている3章「『踏み込まない』『踏み込ませない』人付き合い」に目を向けてみましょう。

人の「どこ」を見るべきか

人の悪いところなんて、三つの子どもでもわかる。

(中略)

でも、人のいいところは大人じゃなきゃ見抜けない。

だから、いいところを見たほうがいい。

そのほうが自分の心の養いになる。

(74ページより)

著者は、亡くなったご主人からよくそういわれたのだそうです。特に歳をとると、人のやさしさに触れる機会が増えてくるもの。ただし、それに気づくためには、「人のいい面を見よう」とアンテナを張っておくことが大切だといいます。

相手のためを考えて、過不足なく、ちょうどいい塩梅で相手のために行動できる。そんな人に出会うとうれしくなりますし、そういう人のやさしさに触れるたび、「自分も誰かに対し、同じようにやさしくしよう」という気持ちにもなれる。そういう人間関係こそが最高だと著者。

逆に、相手の悪い面が目についたときは、見えていても見ないで、ただ心のなかで「自分は同じようなことをしないようにしよう」と思えばいい。誰にだって、いいところもあれば、悪いところもある。それはつまり、どんな人にも、たくさんのいいところがあるということ。

そういう気持ちで、人と向き合ってみると人生楽しくなります。(77ページより)

人づきあいは"八分目"でも多すぎる

生きていくうえで、人づきあいはとても大切。著者にとっても、それは大切なものだといいます。とはいえ、人は十人十色。考え方も価値観もそれぞれ違いますから、誰とでもよいおつきあいができるわけではありません。著者もこれまで、いくつもの出会いで失敗したことがあり、疎遠になった方もいるそうです。

そして、そんな経験から学んだのは、「どんなに親しい人であっても、相手の心に踏み込みすぎてはいけない」ということだったとか。

腹八分目ということばがありますが、人づきあいでは八分目でも多すぎるかもしれないといいます。なぜなら、「特別にその人と仲よくしている」という認識があると、たとえば、相手のことはなんでも知っていなければ気がすまなくなったり、無遠慮になりすぎたりして、トラブルになりかねないから。

「ここまでは、踏み込まれたくない」という境界線は誰にでもあるもので、線の引き方も人それぞれ。人づきあいには心情が大きく影響するので、境界線を踏み越えたけれど「悪気はなかった」では通用しないこともあるということ。そして場合によっては、仲がこじれて修復が効かなくなることも。

そこで、その人と末長くつきあっていきたいと思うのなら、その人のなかにある「その人なりのルール」を知ることが大切。こちらの言動に対する相手の反応をよく観察して、相手がどこまで踏み込むことを許すか、どのあたりから許されないのか、考えてみることが重要だと著者は主張しています。

「ここまでやってあげてるのに」「なんて失礼な」ではなくて、

そうなのね。

私とは違うのよね。

と受け止められれば、大人の付き合いになるでしょう。

自分の価値観と、相手の価値観の違いを知り、受け止める。

それが、八分目のお付き合いだと私は思うのです。

(81ページより)

この考え方は、ビジネスの現場でも応用できそうです。(78ページより)

噂話には参加しない

私は、相手の過去や出自にはこだわりませんし、あえて聞きません。

目の前にいるその人を見て、お付き合いをします。

仮に相手から打ち明けられたとしても、決して踏み込みません。詮索もしません。批判したり、批評したり、結論づけたりもしません。ただ、聞くだけです。(84ページより)

そして「噂」についても、「歳をとると、とかく世間がせまくなり、噂話が楽しくなってしまいがちですが、後味がいいものではないと思います」と述べています。しかし現実的に、あることないことを吹聴したり、1のことを、10や100くらい大げさにいって非難するような人はいるもの。親しくしている人、信頼していた人が、裏ではそうだったというような話もよくあります。

だから、誰に対してでも、自分の事情をむやみに打ち明けたりするのは避けた方が賢明。そういう著者は、噂話好きの人たちの輪には参加しないようにしているそうです。その場を離れられないのなら、うまく話をそらすか、それが難しいなら、噂話をおもしろがったり、賛同したりするそぶりは決して見せないことだといいます。(84ページより)

❇︎

物腰はとても柔らか。しかし、奥の方にしっかりとした芯があることを意識させるアプローチは、いうまでもなく人生経験によって培われたもの。だからこそ説得力がありますし、読んでいるだけで気持ちが豊かになってきます。

きょうは金曜日。この週末にでも、ゆっくりとページをめくってみてはいかがでしょうか?

(印南敦史)

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