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現場にやりがいを生み出す、クロネコヤマトの「全員経営」

現場にやりがいを生み出す、クロネコヤマトの「全員経営」

『現場に任せる』しくみがあるからマニュアル接客をしない

『人間性を重視する制度』があるから、成果だけで社員を評価しない

『全員経営』という理念があるから、指示待ちの社員はいない

クロネコヤマト 人の育て方』(水迫洋子著、KADOKAWA/中経出版)によれば、ヤマト運輸にはこのような「3つの『ない』があるのだそうです。そして「全員経営」という聞きなれないことばについては、次のように解説されています。

宅急便は全国の小区域までをカバーし、客層も多様ですから、(中略)個々のセールスドライバーが自分で考え、自分の裁量で判断・実行し、体験を通じて中身をつくっていくしかありません。それを現場に託し、会社が後押ししていくのがヤマトグループの「全員経営」です。(「はじめに」より)

こうした考え方が根本にあるからこそ、同社は宅配サービス大手としてのポジションをキープできているということ。とはいえそれは、すべての社員に行き届くものなのでしょうか? その点を探るべく、Chapter 0「6万人の現場が、なぜ『全員経営』を実現できるのか?」から、経営に関する基本的な姿勢を引き出してみたいと思います。

6万人のセールスドライバーが分かち合う価値の軸

宅急便ネットワークは全国各地に広がり、セールスドライバーも約6万人ということですが、それほど多くの人々と経営の意思を分かち合うことは容易ではないはず。また、会社として個々の成長を支援していくのも大変な作業です。そこで「全員経営」を貫くヤマトグループでは、次の4つのポイントを軸に社員の自主・自立的な成長を支援しているのだそうです。

1. 社訓(理念の共有)

2. チーム(少数精鋭のセンター)

3. 接客(お客さまとのやりとり)

4. 人事制度(しくみ)

(39ページより)

まずは「社訓」。入社後に社員が最初に受ける「理念(DNA)研修」において、ヤマトグループの社訓(企業理念)が持つ意味や背景を学ぶのだといいます。これは、「ヤマトは我なり」という会社経営の一員として、「世のため、人のため」に役立つサービスの提供者として、そして社会の一員としての倫理観の持ち主として働けるようにするためのもの。社訓を深く理解し、その奥底にある価値観を判断の基軸として共有することを目指しているわけです。

次に「チーム」。配属された各地域のセンターでは、「小集団」のなかで上司や先輩たちに見守られ、その背中を見ながらセールスドライバーの精神やサービスを学ぶそうです。そして単なるドライバーではなく、4つの「S」を自分のものにした多機能のセールスドライバーを目指すのだとか。4つの「S」とは、「セーフティ(安全)」「サービス」「セールス」、そして「スーパー」。最後の「スーパー」だけがわかりにくい気もしますが、これは「◯◯さん」と名前で呼ばれるような、お客さまにとってかけがえのないパートナーになることだといいます。

さらに、セールスドライバーになると当然のことながら、日常業務のなかで接する地域の「お客さまとのやりとり」を通じ、クロネコヤマトブランドの価値を知り、セールスドライバーとしての自覚が生まれることになります。つまり「接客」も、重要なポイントになってくるということ。

また、「人事制度」もきわめて重要。なぜならヤマトグループでは、セールスドライバーが成長しながら、やりがいを持って仕事に集中するためには、会社側がさまざまな組織的支援の仕組みを整えることが必要となってくると考えているから。別の表現を用いるなら、本人が望めば「経営者にもなれる」天井なしの成長的支援が用意されているということ。実際に、セールスドライバー出身の経営幹部が数多く存在するのだそうです。

いわば、こうした軸が整っているからこそ、個々のセールスドライバーは自主性を発揮して仕事に臨めるというわけです。(38ページより)

現場にやりがいを感じさせる10ポイント

ヤマトグループの人材育成について特筆すべきもうひとつのことは、「人の育つ環境をつくる」と決めたら、とことんこだわって集中し、徹底するところ

そのためヤマト運輸では、人事のような本社スタッフでさえ、必ず一度は宅急便センターなど、セールスドライバーが働く第一線の現場で一緒に働く経験をすることになっているそうです。現場を体験することによって、「なにをすべきか」が皮膚感覚でわかるようになるということ。机上の空論とは異なった観点を軸に、リアリティーのある制度のデザインを実現できるというわけです。

そして「現場の成長意欲を引き出すポイント」として用意されているのは、以下の10項目。

1.お客さまとのやりとりを大事にする仕事(地域密着のできる担当範囲)

2.DではなくSD(単なるドライバーではなくセールスドライバー)

3.現場が使える判断基準(サービスが先、利益は後)

4.答えはひとつじゃない、自分の頭で考える(絶対的なマニュアルなし)

5.助け合える仲間(お互いが見える小集団の現場)

6.尊敬できる身近な先輩、上司(生きたモデル)

7.キャリアアップのチャンス(天井なき昇格)

8.全員経営、分け隔てないチャンス

9.人間くささ、アナログパワー(人の心に響いて動く)

10.経営が半端なく徹底する、本気を見せる(人間性評価、経営チーム)

(48ページより)

なお、これら10項目は、大きく4つの環境要素でくくられるといいます。

ともにめざすものへの信頼(経営の言行一致性)

成長を支援する制度・しくみなどの基礎

相談・協力できる仲間

創意工夫し、考えやってみる活躍の機会

(49ページより)

逆にいえば、こうした環境要素の欠落は、社員の意欲を減退させる要因にもなるということ。ヤマトグループは「人の育つ環境づくり」を、社員を意のままにできる存在としてではなく、「人」として真正面から向き合うことを突き詰めているということなのでしょう。(46ページより)

これらの基本的な考え方を軸として、次章以降ではヤマトグループの「経営」「接客」「チーム」「現場」「人事制度」について詳しく解説されています。そのアプローチはときに泥くさくも思えますが、その姿勢にぶれがないからこそ「サービスが先、利益は後」という理念を貫くことができるということでもあるはず。そういう意味では、ここに書かれていることの多くは、あらゆる業種にも応用できると思います。

(印南敦史)

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