特集
カテゴリー
タグ
メディア

「カスタマイズ(特注)」が21世紀の消費動向にもたらすもの

「カスタマイズ(特注)」が21世紀の消費動向にもたらすもの

カスタマイズ 【特注】をビジネスにする戦略』(アンソニー・フリン、 エミリー・フリン・ヴェンキャット著、和田美樹訳、CCCメディアハウス)著者のアンソニー・フリンは、1日1万本ものシリアルバーをカスタム製造する「ユーバー(You Bar)」設立者。「自分にとってなにがおいしいか、自分のからだにはなにがいいかを他人に決めさせてはいけない」という信念のもと、「カスタマイズ」こそが21世紀のビジネスモデルだと位置づけているのだそうです。

私のビジネスは、シリアルバー業界に革命をもたらした。しかし、われわれのやっていることは、実は製造業全体に今起きている大変動のほんの一例にすぎないのだ。(中略)この変動は、きわめて大きく広範囲なもので、今後数十年の輪郭を形作ることになるだろう。(中略)2012年の今、われわれは、21世紀の「カスタム革命」の入り口に立っているのだ。(13ページより)

それは、シリアルバーのカスタマイズを通じて得た実感なのでしょう。「カスタム革命」がなんであるかについて、要点を引き出してみたいと思います。

21世紀の産業革命

たとえば、ナイキのカスタマイズ・シューズ、バーバリーのカスタムメイドのトレンチコート、リーバイスのカスタマイズ・ジーンズ、デルのカスタム・パソコン、マテルのカスタム・バービー人形、フォードのカスタム・マスタング、スターバックスのカスタマイズ・コーヒーなどなど。「ちょっと周囲を見回せば、いたるところでカスタム革命の火がついていることがわかるはずだ」と著者はいいます。

それは、日常生活の非物質的な側面でも同じ。映画やテレビ番組をオンデマンド配信するネットフリックスは、個人の好みに合わせたおすすめ番組を提示し、パンドラはリスナーの好みどおりの曲を自動的に配信。オンラインお見合いサービスのイーハーモニーは、個人の性格やプロフィールに合わせたマッチングサービスを提供している、といった具合です。

またグーグルはユーザーに見合ったサイドバー広告を、フェイスブックは自分だけのニュースフィードを、アマゾンもおすすめ商品を、ユーザー履歴に基づいて表示。グーグルマップと連動し、いまいる場所の近くの映画館情報を提供するiPhoneアプリや、その帰りに立ち寄れるレストランを教えてくれるアプリもあります。

つまり著者が訴えたいのは、アメリカがカスタマイズ大国への道を歩んでいるという事実。そして新たなビジネスの成功法則は、顧客にカスタマイズサービスを提供することだということです。(14ページ「21世紀のカスタム革命」より)

大量生産の終焉

1950年から2000年までの間に、アメリカ人の生活様式が激変したことを著者は指摘しています。家庭料理からファストフードへ。手作り服から大量生産の既製服へ。親の読み聞かせる物語からテレビのヒット番組へ。生活におけるすべてが、この世でひとつしかないオリジナルなものから、大量生産された安価でありふれたものに変わったということです。しかし21世紀に入ったいま、私たちは大量生産品から完全にカスタマイズされたものへ移行しようとしている。既製品よりもカスタムメイドを好むようになったことで、より新鮮で加工の少ないものを食べ、自分のニーズやスタイルに合った耐久消費財(家具、車、家など)に囲まれて暮らし、自分のセンスや体型にフィットした注文服を着るようになっているわけです。

それは過去の生活様式への揺り戻しのようにも見えますが、現在進行中のカスタム革命には、新しい大きな特徴が。なんでも自分で手づくりしていた過去とは異なり、いまのカスタムメイドは自分の手でつくるドゥー・イット・ユアセルフ(DIY)ではなく、「クリエイト・イット・ユアセルフ(CIY)」だという点。人と違うオリジナルを創作する、楽しい部分だけを自分でやるということです。たとえば車のマスタングに塗装する炎のデザインや、グルテンフリーのシリアルバーの材料を好きなように選ぶなどの工程を自分でやり、実際の面倒な作業は人に任せるということ。

CIYはかつて超富裕層だけの特権でしたが、インターネットで生産者と消費者が直につながったことにより、企業はCIY製品を愛良生産品とほぼ変わらない価格で提供できるようになったというわけです。(24ページ「大量生産の終焉 ──アメリカはカスタマイズ王国になった」より)

CIYの現状

ちなみに現在、CIYは次のようになっているといいます。

1.インターネット回線の高速化

2.ウェブデザインの低価格化

3.オンライン決済に対する信頼感

4.インターネット接続がいたるところで可能に

5.インターネットでニッチメディア広告が可能に

6.発送システムの効率化

高速ブロードバンドやワイヤレス接続の利用者が増え、ウェブデザイナーに払う費用が低く抑えられるようになり、ネット上でものを買うことへの抵抗感が薄れ、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになり、カスタマイズ企業は費用をほとんどかけることなくターゲット市場にリーチできるようになり、発送にもお金がかからなくなった。こうしたことが複合的に絡み合い、CIYの可能性を後押ししているのが現状だというわけです。(44ページより)

CIYカスタマイゼーションへの転換

かくして、ありとあらゆるかたちの完全カスタム商品が、初めて、大量生産品とさほど変わらない価格と品質で手に入るようになったといいます。事実、BMWやコカ・コーラなどの大手から、さほど有名ではない企業まで、700社以上のカスタマイズ企業が存在し、あらゆる製品を提供しているそうです。探す場所さえ心得ていれば、求めやすい価格のあらゆるカスタム商品を入手可能。

婚約指輪、自叙伝、スーツケース、プロテインパウダー、ビーフジャーキー、ペットフード、家具、音楽、iPhoneカバー、本当の愛(カスタマイズされたお見合いサービス)など、それは多岐にわたるといいます。そして注目すべきは、この現象が「ごく最近のこと」だという点にあるのだとか。(47ページより)

カスタマイゼーションが経済にもたらすもの

カスタマイゼーションという成長市場が、アメリカの主要業界の一部を占めるようになる日は近い。著者はそう断言しています。事実、マサチューセッツ工科大学のスマート・カスタマイゼーション・グループを率いるフランク・ピラー氏は、今後10年以内に、アメリカ人の買う衣類にカスタムメイドが占める割合は15パーセントにのぼり、既成の食品や飲料に占める割合は5パーセントになると分析しています。

イメージしづらいかもしれませんが、アメリカ人が1年間に買う衣類は総額約2500億ドルで、加工食品と飲料には年間約1兆ドルが費やされているので、絶対数になおすと巨大な数になるわけです。(50ページより)

本書は、アメリカ国内におけるカスタマイゼーションの実情を明確に浮き彫りにしています。だから読み進めるに従って、人類の未来の姿を垣間見ているようなダイナミズムに包まれることでしょう。そして読者目線として注目すべきは、それらの多くが、日本を含むアメリカ以外の国にもあてはまるということ。つまりここからは、世界的な消費の未来をも読み取ることができるのです。

(印南敦史)

swiper-button-prev
swiper-button-next