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メディアを駆使するお坊さんが教えてくれる「ためこまない生き方」

メディアを駆使するお坊さんが教えてくれる「ためこまない生き方」

お坊さんが教える「悟り」入門』(長谷川俊道著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、天文12年(1543年)に創建された曹洞宗のお寺、瑞岩寺の副住職である著者が、日常の暮らしのなかですぐに試せる禅の教えを紹介した書籍。

しかしこの著者、大学卒業後は福井県の永平寺での修行を経て、ハワイのお寺で開教師(住職)として約7年間従事したのち、帰国後に瑞岩寺の副住職になったという、ちょっと変わった経歴の持ち主。ブログやメルマガ、寺報でお寺のことを伝えたり、講演やイベントを企画したり、FMラジオ番組で人生相談をしたり、ポッドキャストを配信したり...と、活動もユニークです。

さまざまなメディアを使いこなす副住職は、本書ではどのようなことを教えてくれているのでしょうか? 第2章「喜捨──ためこまない生き方」から、いくつかをご紹介します。

執着を捨てる

仏教に「喜捨(きしゃ)」という言葉があるそうです。文字どおり「喜んで捨てる」ということですが、なんでもかんでも捨てろというわけではなく、己の「執着」を捨てるべきだという意味。

人は生きているかぎり、さまざまな執着を抱いているもの。自分が大切にしているものほど捨てることをためらいますが、それはよくも悪くも「執着している」ということ。たとえば執着が表れやすいのがお金で、お寺や神社のお布施でも、お金に対する執着からトラブルに発展することがあるそうです。理由は、お金に思いを残したまま納めると、「取られた」という気持ちになるから。

しかし、納めることが喜びにならなければ、本当の喜捨とはいえないと著者は言います。「これだけしてあげたのだから、このくらいはしてくれるよね」というように、お金に念(心)を残したままだと、残念な結果に終わってしまって当然。むしろ、「(お金のことに限らず、なんにしても)相手が喜んでくれるなら、それでいい」くらいの気持ちの方が、自分の行為を素直に認めることができ、人のために何かをすることに抵抗がなくなるそうです。(70ページより)

イライラする気持ちを洗い流す

お寺に寄付をするときに「布施(ふせ)」という言葉が使われます。お布施の「布」は、その文字のとおり布地の意味。布は何度も洗うと色が落ちて無垢になり、色に染まりやすくなる。それが、仏教の修行と同じだと考えられていたのだということです。布のように自分の精神を何度も洗い、身と口と心(三毒)を清浄にしてゆくことが、安心を得るために大切。

ちなみに仏教でいう「三毒」とは、貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち)。この3つの心の毒が、私たちの善の心をもっとも害すると教えているのだそうです。

「貪」は、貪ること。あれこれと欲し、執着する心。

「瞋」は、怒ること。自分の思いどおりにならなかったり、欲するものが手に入らなかったりするときに怒る心。

「痴」は、無知なこと。欲しいものを手に入れるため、道理を忘れ、正しい道から外れそうになる愚かな心。そして、そういった心が、また「貪」を呼び起こすとも考えられているのだとか。

(83ページより)

これらをすべて捨て去るのは簡単ではありませんが、布を洗うように、「このイライラを洗ってしまえ」と思うようにする。つまり布を洗うイメージが、心を鎮めるきっかけになればいいということ。日常の些細な出来事であっても、心の三毒を洗い流し、周囲の人に「どうぞお先に。よかったら手伝いましょう」と言える心の余裕が大切だというわけです。(82ページより)

まず、自分を好きになる

人間関係はなかなかうまくいかないものですが、人から愛される人になるためには、まず、自分を愛してあげることが大切だと著者は記しています。そのままの自分を受け入れ、好きになることが必要だということ。

「そのままの自分を受け入れる」とは、いまの自分に感謝し、満足するということでもあるはず。自分を肯定することが大事だという考え方です。世の中はすべて思い通りにならないのだから、自分のことも思いどおりにならなくて当然。だから「そんな自分でいいんだ」と認めてしまおうという考え方です。

そして自分のことを認められると、徐々に自分を好きになれる。すると、他の人にも愛情を向けることができるようになる。心のなかにあるコップが満たされれば、あふれ出た愛情がほかの人に向けられる。

それから、自分のまわりを興味深く見回してみる。自分が関心を向けると、相手からも関心を持たれるようになり、コミュニケーションが回りはじめる。そこで自分を愛したように、その人に愛情を注ぐことが大切だそうです。

ここで著者は、「愛情のコップを一杯にして、欲望や執着のコップを『空』にすることをイメージしてください」と勧めています。そうすれば「真空」の場所に空気が吸い込まれていくように、自分の「空」のコップにも、人も、物も、お金も集まってくるから。(94ページより)

さまざまな例を交えながら、柔らかな文体でわかりやすく解説されているため、仏教の教えを抵抗なく理解できるはず。そしてそれらは、ビジネスパーソンの日常にも応用できることばかりです。そういう意味で、信仰心の有無に関係なく、受け入れるべき余地が多い書籍だと思います。

(印南敦史)

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