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人生の岐路でヒントを与えてくれる作家たちのことば

人生の岐路でヒントを与えてくれる作家たちのことば

本日ご紹介したいのは、『作家の決断 人生を見極めた19人の証言』(阿刀田高編、文春新書)。「我々は人生の岐路で何を考えたか」「恋愛と性について語る」「プロフェッショナルとは何か」「生と死について」という4つのテーマに沿って、19人の作家が経験や思いを語ったインタビュー集です。

作家の言葉と聞くと特別な印象を受けるかもしれませんが、ビジネスパーソンへのヒントとなりそうなフレーズも、数多く見つけ出すことが可能。第一章「我々は人生の岐路で何を考えたか」からいくつかを引き出してみましょう。

ホテルマンから作家へ:森村誠一

『人間の証明』などの名作を生み出してきたベストセラー作家の森村誠一さんといえば、ホテルマンから作家に転身したことで有名。そのことについて、本書にはこんなやりとりがあります。

── どうして大学卒業後、ホテルマンになることを決心されたのでしょうか。

森村 他に仕事がなかったからです。あのころは大変な就職難だったから。いや、よかったですよ。あんなに人間観察の出来る仕事もなかったですし。(中略)二十四時間、いろんな人の多彩な人生を観察できる。(13ページより)

執筆のペースについては、次の言葉が印象に残りました。

── 今でも全盛期のペースを維持する理由というのは何があるんですか。

森村 そうしないと若い人に負けちゃうから。作家というものは生存競争が激しいんです。胡坐(あぐら)をかいていられない。(中略)仮に七十代、八十代でもレースに参加していようと思ったら、下りのエスカレーターを駆け昇っていかなければいけないんです。(19ページより)

当たり前ですが、どんな世界にも生存競争があるもの。大切なのは、そこで負けないように努力することなのでしょう。(10ページより)

警察官殺しで誤認逮捕:佐木隆三

警察官殺しで誤認逮捕された経験を持つ佐木隆三さんの項で心に残ったのは、その死生観。

── 最近は若者の犯罪でも、生に執着しないような傾向が増えていると感じるのですが。

佐木 僕がどう思うかというと、現世がつまらないものであるなんて、断じてない、と。(中略)いとも簡単に自殺や心中してしまう若者なんて、堪らないですよ。現実は決してちっぽけなものじゃない。それをわかってほしいと思う。(30ページより)

就職難による若者の自殺が増えつつあるといわれるなか、深く響く言葉だと感じます。(21ページより)

「給料日本一」の会社を脱サラ:津本陽

続いて、サラリーマン経験を持つ津本陽さんの、小説に対する考え方。

── 先生にとって小説とは?

津本 結局、過去を振り返った時の自分の胸の痛みですね。会社に勤めてて十二年半もいて、顔は利くけど何ともいえないルーティンばっかやってるでしょ? 理不尽なんて幾つになっても生きているものだと思っていましたよ。(中略)だから、何時も痛みみたいなのがあったんですよ。その痛みみたいな物を文字に変えてみたいと思って、それで始めたんですよ。(後略)(47ページより)

長い会社員生活があったからこそ、そんな境地に行き着いたのかもしれません。(31ページより)

「この人じゃなきゃ」ってものがないと:大沢在昌

『新宿鮫』シリーズでおなじみ大沢在昌さんのことばには、なるほどとうなずきたくなるような説得力が。

絶対受賞できない人がいる。それはやっぱり「そこそこ書けるけど、こういう人はこの世の中にもう既にいっぱいいる」と。例えば、よしもとばななが好きでよしもとばななみたいな小説をそこそこ上手に書けても、よしもとばなながいたらいらないんだよこの人は。(中略)この人じゃなきゃ書けないって思わせるものがないとやっぱり駄目なんだよね。(85ページより)

これも小説だけではなく、すべての仕事に通じることだと思います。(69ページより)

「あいつ嫌だから会わない」なんて駄目:田辺聖子

最後にご紹介する田辺聖子さんのこの言葉は、コミュニケーションに不可欠なものを再認識させてくれます。

「私、あいつ嫌だから会わない」なんて駄目(笑)。どんなことでも全て勉強だと思って。(中略)。良い悪い、この人だったら合う、じゃなくて「ああこういう人もいるんだ」と。(中略)あなたたちは色んな人間がいるんだってことを知るために大きくなり、「おとな」になるんだからね。価値観の違う誰かと会えば、絶対に学ぶことになる。好きになりなさいとかそういうのではなく、相手には相手の発想があると思えばいい。(後略)(100ページより)

ビジネスの現場で人間関係に悩む人にとっても、意義ある言葉ではないでしょうか。

これらに目を通していただければおわかりのとおり、ひとつひとつの言葉は作家という職業の人間だけでなく、さまざまな環境で生きる人たちにも当てはまると思います。だからこそ、少なからず視野を広げることができるはず。ご一読をおすすめします。

(印南敦史)

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