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震災を乗り越え、「ひと粒1000円」のイチゴを誕生させた経営者に学ぶ

震災を乗り越え、「ひと粒1000円」のイチゴを誕生させた経営者に学ぶ

きょうご紹介したいのは、『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(岩佐大輝著、ダイヤモンド社)。僭越ながら、私も編集協力というかたちで携わらせていただいた書籍です。

カテゴリー的にはビジネス書の範疇に収まるのですが、特徴的なのは根底に「ストーリー」がある点。著者の実体験に基づいたビジネス書は少なくありませんが、本書の根底に流れているのは、まるで映画のようなストーリーなのです。内容を簡単にご説明しましょう。

突然訪れた「99%の絶望」

東京でIT系の会社を経営していた著者はその日、東日本大震災を三軒茶屋の自宅で体験します。折りしも、里帰り出産のため福島県郡山市の実家へ戻った奥様を見送ってから数時間後のこと。

そして震災3日後に故郷の宮城県亘理郡山元町に戻った著者は、目の前に広がる光景を見て衝撃を受けることになります。

思い出のつまった見慣れた景色の多くが「無」になっていた。目に見えるものといえば、不気味に静かな海と瓦礫だけ。(中略)まるで戦後の焼け野原のようだった。(37ページより)

山元町は有名なイチゴの産地でしたが、結果的はイチゴ農家129軒中122軒が壊滅することに。しかしボランティアとしてさまざまな人たちと交流を重ねるなか、それまでは経営者として「どれだけ儲かるのか」しか考えなかったという著者の意識が少しずつ変化していきます。

気づいたのは、経営とは「その活動が、社会にどれだけ資するのか」こそが重要だということ。そこを出発点にしなければ、話は始まらないと思うようになったわけです。(36ページより)

イチゴを武器に一点突破

ここで驚くべきは、著者が町の復興のために、まったくの未経験だったイチゴ栽培をしようと決意したこと。山元町にイチゴ農家が多かったからではなく、

イチゴの施設園芸の市場規模は1800円億円で、世界的にも消費が伸びている

景気の影響を受けにくい

日本人がいちばん好きなフルーツである

大きな需要があり、世界中で強い「コンテンツ」として勝負できる

山元町にはイチゴを生産してきた技と経験がある

これらの客観的な状況、数字を冷静に見極めたうえで、「儲かるビジネス」になるかどうかを判断したのです。生まれ故郷を完全に失った状況下で、これほど冷静に考えることができたという事実にこそ、著者のポテンシャルが反映されているように感じます。(54ページより)

軌跡的な成功を実現

かくしてイチゴ農家経験ゼロの著者は「わかる人に聞きまくる」ことを決意し、その過程で、重要なパートナーとなる「洋平ちゃん」と知り合い、彼の紹介で地元のイチゴの匠として知られる頑固な「イチゴバカ」こと「忠嗣ちゃん」とも出会います。ちなみ忠嗣ちゃんも震災で自身の畑を失っていた人でしたが、著者はこのとき、次のように提案します。

「忠嗣ちゃん、もう一回、最高のイチゴをつぐっぺ。山元町を日本一の産地にすっぺ。そいづ実現させるには、忠嗣ちゃんの力が絶対に必要なんだ。一緒に新しい農業つぐっぺや」(70ページより)

そしてここから、著者と忠嗣ちゃんの長いつきあいがはじまることに。ただしIT技術を駆使して最先端のイチゴ畑を作ろうと決意した著者と、何十年も続けてきたやり方を崩さない忠嗣ちゃんとの間では、当然のことながらいろいろなすれ違いが発生します。

しかも、苦労して掘った井戸から塩水しか出なかったり、「産業として大きくなりにくい仕組み」ができあがっているイチゴ農業の現状に立ちふさがられたり、2億円もの借金をすることになったりと、新しい問題も次から次へと勃発。

ひと粒1000円のイチゴ

さて、そんな著者は最終的にどうなったのでしょうか? 結論から先にいえば冷静さを軸とした目論みは大成功し、「ミガキイチゴ」と名づけられた山元町のイチゴは、新宿伊勢丹でひと粒1000円の値をつけるまでになります。さらにはインドにも進出し、いまなお成長を続けています。

ここでそのすべてを明かすことはできませんが、ひとつひとつのプロセスがとてもおもしろいので、ぜひ読んでみていただきたいと思います。またビジネス書としての観点から捉えても、「『やるかやらないか』の時点で、勝負の99%は決まる」(88ページ)と断言する著者の方法論はさまざまなシーンに応用できるはずです。

「99%の絶望の中に、1%のチャンスは実る」

要は入れさえすれば、可能性は無限大に広がるということだ。

壁は高いからこそ超える価値が生まれる。(198ページより)

震災を乗り越えてきた末にミガキイチゴを成功させた著者はいま、サウジアラビアへの進出に伴う苦難のなかでそう記しています。このフレーズにも見え隠れする著者の本気度は、さまざまな意味合いにおいて読者を刺激してくれることでしょう。

(印南敦史)

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