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「毎日は人生で一番新しい日だ」──世界一のバリスタがいまも日々データを残し続ける理由

この連載では、下北沢にあるエスプレッソ専門店「BEAR POND ESPRESSO(ベアポンド・エスプレッソ)」の味と、田中さんのバリスタの哲学を、朝のコーヒーの美味しい時間に4回に分けてお届けします。

第1回 「日常に刺激を与えるトリガー」になるエスプレッソを下北沢BEAR PONDで飲んでみる

自分にとって「ここでしか飲めないエスプレッソ」があることは、その人の人生にとって素敵なことかもしれません。毎朝の目覚めの一杯でもいいでしょう。あるいはどうしても毎日がうまくいかないときに、その店で飲む一杯で何かが変わったら...。

そんな大事な一杯を得ようと思ったとき、あなたは何を基準に選びますか? それはつまり、あなたが相手の何を一番信頼しているか、ということに繋がるかもしれません。何を信頼するべきか。金か、地位か、あるいは客か。下北沢のエスプレッソ専門店「BEAR POND ESPRESSO」の主人・田中さんからすればそのどれもが「NO」。代わりに出てきたのは、膨大なエスプレッソのデータが書き記された、カッピング・ノートでした。

僕のエスプレッソに方程式はない。季節によって気温は変わり、天気次第で湿度は大きく変わる。エスプレッソの前では、同じ日なんて1日もないんだ。だから僕は毎朝カッピング(試飲)をして、とったデータを生かして、豆に合わせて0から今日の一杯をつくる。

膨大な量のノートにびっしり書かれた詳細なデータ、田中さんにとってそれだけが信頼できるものだと言います。

本当にエスプレッソの味の深さが分かっていれば、毎日が不安になるのが「正常」だ。いつまでも自分がパーフェクトになれないのは苦しいことかもしれない。でも、自分がパーフェクトだったら、もう伸ばしようがない。そっちのほうが、僕には苦痛だよ。

「永遠の未完成」という言葉を思い出します。では、田中さんにとって、BEAR POND ESPRESSOの「ここだけの一杯」の条件とは何なのでしょう?

そこにコピー出来ないものがあるかどうかだね。それを形づくるものは、店の雰囲気や、レシピなどの"スタイル"ではない。そうしたフィジカルなものの影にある、知識、経験、芸術感性が有機的かつ動的に結びついたエナジーによってドライヴされているもの。誰にもコピーできないエナジー・ドリヴンこそが、僕のエスプレッソをどこのものとも違う一杯にしてくれる。

bearpond0202.jpg

今の時代、フィジカル(物理的)なものは一瞬でコピーされ、計画的なマーケティングで流通します。どこの街角でも同じコーヒーが飲めることは本当に幸せでしょうか?

自分は飲まされているのか、飲んでいるのか。その店で飲む一杯には、そんなことにも気づかされるようです。

(森オウジ)

Photo by Koji Ogata (Mediagene ,Inc.).
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