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ドラッカーの組織論をオーケストラによって理解する

ドラッカーの組織論をオーケストラによって理解する

ドラッカーとオーケストラの組織論』(山岸淳子著、PHP新書)は、そのタイトルからしてエキセントリックかもしれません。一般的な視点から捉えれば、有名な経営学者のピーター・ドラッカーとオーケストラとの間には、なんの接点も見出せないからです。

しかし著者によれば、音楽の聖地として知られるオーストリア・ウィーン生まれのドラッカーにとって、音楽はとても大きな意味をもっているのだとか。そしてその影響もあって彼の著書には音楽やオーケストラにまつわるエピソードが頻繁に登場するのだそうです。つまり本書は、そこに焦点を当てた興味深い著作。

第二章以降は話題がややオーケストラに寄り過ぎていますが、第一章は音楽とドラッカーとの関係性がわかりやすく示されています。というわけで第一章から、ビジネスに応用できそうな部分を引き出してみます。経営管理者は指揮者である

まず、さまざまなビジネスに応用できそうなのが、1954年の著作『現代の経営』。

経営管理者は、部分の総計を超える総体、すなわち投入された資源の総計を超えるものを生み出さなければならない。例えていうならばオーケストラの指揮者である。指揮者の力、ビジョン、リーダーシップによって、単に音を出すにすぎない楽器が生きた総体としての音楽を生み出す。しかし指揮者は作曲家の楽譜を手にする。指揮者は、いわば翻訳家である。だが経営管理者は、指揮者であるとともに作曲家である。

(26ページより)

この文章は見事に、組織と経営者、そして雇用者との関係性を言い表していると思えるのではないでしょうか。また、これが60年近くも前に書かれたものであるというのは驚きに値します。

組織としての真の総体を生み出すには、経営管理者たる者がそのあらゆる行動において、総体としての成果を考えるとともに、多様な活動が相乗的な効果をもたらすよう留意しなければならない。おそらくここにおいて、オーケストラとの比較が重要な意味をもつ。オーケストラの指揮者は常に、オーケストラ全体の音とともに第二オーボエの音を聴く。

(30ページより)

これも『現代の経営』からの引用。経営者のあり方をはっきりと明言していますが、注目すべきは、目立たないながらもオーケストラには欠かせない「第二オーボエ」を引き合いに出していること。組織運営においても、第二オーボエ奏者のような地味な立場の人がもたらす功績を見逃してはならないというわけです。

情報に基づくコミュニケーション

また1988年の著作『情報が組織を変える』では、組織内コミュニケーションも情報に基づいて行なわれることを、オーケストラを例に出して示しています。

オーケストラは、さらに多くのヒントを与えてくれる。時には、数百人の音楽家が同時に演奏する。組織理論によれば、楽器のグループごとに、グループ担当副指揮者が必要であり、その下に、楽器ごとの楽器担当副指揮者が必要である。

情報化組織における主役は、専門家であって、トップ経営者でさえ仕事の仕方については口出しができない。指揮者はある楽器の演奏方法が分からなくても、その楽器の奏者の技術と知識を、いかに生かすべきかを知っている。これこそ、あらゆる情報化組織のリーダーが身につけるべき能力である。

この部分もまた、組織における経営者の立場をわかりやすく浮き上がらせています。

他にも「使える」フレーズが数多く収録されていますし、なにより評価に値するのは、とかく難しいと思われてきたドラッカーの理論が、音楽を媒介することで親しみやすく思えてくる点です。

クラシック音楽に興味のない方には退屈な部分もあるかもしれませんが、それでも一読に値すると思います。

(印南敦史)

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