仕組みと要因を分析すれば「ビギナーズラック」は誰でも再現できる
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遊んだことのないゲームで勝ってしまったり、小さな子供がびっくりするような作品を作ってしまったり。これらはビギナーズラックと呼ばれますが、実は環境を整えれば誰でもビギナーズラックを起こすことができる、という記事が米lifehackerに載っていました。まずはこの現象の仕組みと、それをどう生かすかという説明から始めます。
Photo remixed from Dan Gerber.(Shutterstock)ビギナーズラックなんて存在しない
ビギナーズラックなんて存在しない。まず最初にこれをしっかり言っておかねばなりません。ビギナーズラックという現象は、分析ができ、はっきりと説明ができるものです。
「ビギナーズラック」を目撃したとき、私たちには信じたいものを信じてしまうという「確証バイアス」が働いている可能性があります。ベテランが初心者に負けたのを見たら、私たちは「ビギナーズラックが起きた」と思ってしまいます。しかし、ここで実際に起きているのは、その初心者を成功(勝利)に導いた環境を私たち自身がちゃんと認識できていないということです。二人とも同程度のスキルだったのかもしれないし、ベテランは疲れていたかもしれないし、初心者はすでに同じような失敗をして反省した経験があったのかもしれません。これをただのビギナーズラックと結論づけてしまうと、何が起きたかをきちんと説明できるデータを見逃すことになるのです。
ビギナーズラックが起きる仕組みいわゆる「ビギナーズラック」が起きるにはたくさんの要因があります。以下ではその要因を吟味し、なぜそれが偶然起きたものだと誤解されるのかを探って行きます。

私たちは子供の考えていることによく驚かされます。子供たちは、大人が思ってもみないような物の見方をしますが、これには理由があります。サンフランシスコから禅をアメリカ人に広めた僧侶、鈴木俊隆の言葉を引用すると、
初心者の心には可能性が溢れているが、熟達者の心にはそれが少ない。
と、いうことです。つまり初心者(子供)は経験に邪魔されることがなく、あれこれ考えを巡らすことがありません。よくわからないままでつまらない行動をしてしまう恐れもあるのですが、よりクリエイティブな方法を思いつき、リスクを考えずにやってみることができるという見方も可能です。熟達した人は経験があり分析もできるのですが、それゆえに初心者のようなチャレンジができる幅が狭まっていることがあります。
ソフトウェア開発に携わったことのある人なら、開発した製品は一般の人にテストしてもらうのが重要だと理解していることでしょう。知識がありすぎるエンジニアには、当たり前すぎて見失っているものがあるからです。その分野について詳しくない人の意見を聞いてみることで、新鮮な見方に触れ、よりよい仕事ができるようになる可能性があります。
Photo by Dmitriy Shironosov(Shutterstock)
諸説ありますが、プレッシャーの下では脳内の前頭前野の働きが止まってしまう、ということがいえるようです。失敗したらどうしようという不安がある状態では、論理的思考を用いてタスクを実行する際に、必要なパワーが脳内に足りなくなってしまうのです。また、私たちはプレッシャーを感じている時に、状況を意識的にコントロールして成功へ導こうともします。例えば、ゴルフで過去に何千回も沈めたパッティングにおいて、肘の曲げ方をことさら気にかけてしまう、といったことです。こうして細かいことに注意しすぎることで、本来のパフォーマンスを損ない、墓穴を掘る結果となってしまうのです。
初心者はどんな結果になるかをあまり気にしないので、このような問題は起こりません。ほとんどの初心者はベテランと対戦するとき、自分が負けるものだと思っています。結果を気にしないのであれば、不安を感じることもないのです。頼るべき経験がないので、プレッシャーに負けることもありません。初心者がベテランに勝つのは、運もありますが、脳の働きに大きな違いがあるのです。
Photo by Oleg Klementiev(Flickr)

考え過ぎもよくありませんが、直感に頼りすぎるのも問題です。エキスパートの中には、こちらの記事にもあるように、「筋肉の記憶」、いわば「成功するパターン」を持っている人も多くいます。予測できる状況ではそのパターンで難なく成功してしまうのですが、初心者との対戦や、予期せぬ事態となったときには、パターンが通用しないので失敗してしまう可能性があります。
「筋肉の記憶」は一般的には身体の動きに関係するのですが、それらは脳に蓄えられた様々なパターンの集まりともいえます。つまり「手続き記憶(Procedural memories)」に当たります。ウィキペディア(英語版)にはこんな説明があります。
手続き記憶とは、無意識下で最も使われる記憶、いわゆる「体が覚えている」状態です。手続き記憶は、必要に応じて自動的に引き出され、運動スキルと連動します。例えば、靴のひもを結ぶことや本を読む動作、飛行機の操縦などです。手続き記憶は長期的かつ潜在的な記憶であり、繰り返し動作を行うことで脳が学習し、つくられていきます。
「手続き記憶」は無意識のうちに身につくもので、同じような作業を行うときには役立ちますが、新しい状況下や気まぐれな対戦相手と戦うときには不利に働いてしまいます。身に付いてしまった一連の動作が、考える前に身体を動かしてしまい、失敗へとつながってしまうのです。初心者は手続き記憶がない分、同じことをするのにも時間がかかるかもしれませんが、「この状況にはこれ」というようにプログラムされてはいません。そのため、無意識に使える情報がなく、十分に考えてから行動を起こしているのです。
Photo by SuperFantastic.(Flickr)自分でビギナーズラックを再現する(あなたがビギナーでなくても)

ここまで紹介したビギナーズラックの仕組みからわかることは、何かに慣れて上達してくると、それが不利になる原因にもなりうるということです。この状況から抜け出すことは容易ではありませんし、慣れていることも悪いことではありません。しかし、たまに初心者の気持ちに戻ってみる価値はあると思います。ここから先は、ビギナーズラックを再現する方法を紹介します。
- すべての状況において、かつて自分はどんなふうに対処していたかを思い出し、現在とはどんな違いがあるかを考えてみてください。新しい状況に対して、今までと同じアプローチをしないようにしましょう。
- 一見クレイジーだと思うようなアイデアや戦略も一考の余地あり。大きなイノベーションはバカげたアイデアに宿るものです。
- 絶対ダメだと思っても、とりあえず考えてみましょう。
- 気に入ったアイデアがあっても試す勇気がない、というのはもしかしたらいい前兆かもしれません。みんなに発表するのは気が引けるなら、それだけそのアイデアがユニークで、リスクを負っても試す価値があるということです。
- 自分がプレッシャーの下で考えすぎていることに気づいたら、自分の直感を信じましょう。逆に、あまり深く考えずに動いてしまっていることに気づいたら、立ち止まって他にどんな選択肢があるのかを考えましょう。
- 子供の気分に戻ってみましょう(英文記事)。目の前の問題を、知識や経験がない人だったらどうとらえるのかを考えるのです。自分が知っていることをとりあえず投げ捨てたら、そこから何が見えますか? もしかしたら、持てる知識をすべて使って見えるものとは異なるより良い答えが見つけられるかもしれません。
一瞬でビギナーズラックを再現させるというわけではありませんが、少しずつ毎日試していくことで効果が現れるものです。続けることで、いつも初心者のように新鮮な考え方で、物事に取り組むことができるようになります。
Adam Dachis(原文/訳:山内純子)