Google Chromeの中の人に聞く、ブラウザの未来とは
Googleのブラウザ『Google Chrome』はリリース直後から順調にシェアを伸ばし続けており、世界のブラウザシェアで第2位を占めるFirefoxを追いつき追い抜こうとするほどの勢いを見せています。開発コンセプトに、スピード(Speed)、簡潔性(Simplicity)、セキュリティ(Security)の3つのSを掲げ、それに加えて、6週間ごとの自動アップデートや拡張機能を提供するChromeマーケットを展開するといった独自の動きは、後発ながら他のブラウザ開発にも確実に影響を与える存在になっています。
9月2日に3周年を迎えてからは、さらに製品キャンペーンを積極的に展開しており、大物レディ・ガガが登場するTVCMを放送するなど、一般に広く認知させるだけではなく、従来のChormeユーザーとは異なる方向へのアピールに力を入れているのも気になるところです。
そんなChromeの開発体制はどのようになっているのか、これからどのような方向へ進んでいこうとしているのかについて、今回はGoogle JapanでChrome開発を担当しているプロダクトマネージャーのバウ・ケンジ氏に話をいろいろ伺いました。
編集部:先日ちょうどChromeの最新版がリリースされたところですね。
バウ:9月17日に最新の安定版であるGoogle Chrome 14がリリースされました。くわしくは私自身がGoogle Japan Blogにも書いていますが、大きな特徴はWeb Audio APIとNative Clientの2つをサポートしたことです。
1つ目のWeb Audio APIというのは、主にウェブから流される音楽をブラウザ上で開発できる環境を提供します。最近はネットゲームで音に対する需要が特に増えていて、そこで流れる音楽はゲームの世界観を拡げるのに重要な要素になっています。たとえば狭い洞窟の中にいるような場合、より立体的な音の演出ができるなど、シチュエーションに合わせたエフェクトをプリセットで使えるようにしています。クリエイターにとってはコンパイルする作業の手間が省けますし、どのような効果音が加えられたかもすぐにわかるので、作品の開発により集中でき、ユーザーはチープな音源から解放されるようになるでしょう。他にも用途はいろいろあって、音楽に合わせて画面の表示を変えて見せたり、マウスで操作できるエフェクター盤など、デモをいくつか体験できるようになっています。
もう1つのNative Clientというのは、ウェブアプリケーション開発のためにCやC++で書かれたプログラムをバイナリで実行できるようにするもので、主にクライアントが安全な環境で開発が行えることを目指しています。今のところサポートするのは Chrome ウェブストアで配布されるアプリのみですが、いずれはこうした開発環境がスタンダードになっていくと思います。
編集部:いずれもHTML5と組み合わせて使うことができるのですね。
バウ:最近見られるサービスやアプリケーションのほとんどはHTML5やその他のWeb技術の組合せでできています。ユーザーがインターネットで新しい体験をするためにはブラウザがこれらの技術に対応している必要があるので、より使いやすい形で提供することもChromeの開発の課題の一つです。
編集部:どちらかといえば新しい機能は開発者向けのようですが、他にも何かポイントはありますか?
バウ:Chromeの開発原則である3つのS(スピード、シンプリシティ、セキュリティ)については、もちろん引き続き機能を高めています。スピードに関してはJavaScriptの性能が上がったこともあり、表示や動作が速すぎてユーザーには実感しにくいところもあるのですが、Chrome 13で取り入れたインスタントページのような、検索結果のサイトを表示する前から裏でレンダリングするといった、他の形でスピードや使い勝手の良さを実感できる機能を取り入れています。テスト的にインスタントページをみなさんのサイトにも搭載できるようにしようといったことも開始していて、HTMLタグに記述を加えるだけで、新しい機能が簡単に実現できるようになります。
編集部:開発はいくつ先のバージョンまで進められているのでしょうか?
バウ:だいたい2つ先ぐらいですが、これらはGoogleの中でクローズドで行っているものではなくすべて公開されていて、「The Chromium Projects」のページから誰でも見られるようになっています。
編集部:Chromeは6週間ごとにリリースされていますが、今までアプリケーションのアップデートを頻繁に行うことはユーザーに負担をかけるので、むしろ慎重に行われていたような気がするのですが、その点についてはどう考えているのでしょうか?
バウ:おっしゃる通り、今までソフトウェアをアップデートする場合は、画面にアラートが表示されて、それに従って作業をしていくという方法でユーザーに負担をかけるものでしたが、Chromeはユーザーが意識することなく自動的にアップデートするという点が大きな特徴になっています。その際にFlashやPDFといった、従来ではプラグインの形で提供されていた機能をあらかじめ搭載した形で提供するので、パソコンの操作に不慣れなユーザーにとってはかえって便利になると考えています。

また、Web標準化については、多くの企業や専門家が関わって調整を行っていますが、それゆえにコンセンサスを取るのに時間がかかるようになってきています。次々と新しく登場するWeb技術を使って開発したいと思っている人達にとっては、標準化が決まるまで新しいブラウザがリリースされるのを待っていられませんし、ユーザーも新しい体験を望んでいます。そうした状況をふまえると、6週間というペースは今のところちょうどいいと考えています。
編集部:ユーザーが最新版をインストールするのをためらう理由の一つとして、使っている拡張機能が対応に間に合わないというのがあると思うのですが、そうした点もクリアされているということですね。
バウ:基本的に拡張機能は最新版に対応できるよう、開発者向けのサポートを行っています。この点については他のブラウザも同じ状況だと思うので、Chromeが特別というわけではないと思います。もし、万が一6週間の定期リリースが遅れることがあるとすれば、それは唯一セキュリティで問題があり、ユーザーに不具合をもたらす可能性がある場合ですね。
編集部:この内容でリリースします、というGOサインを出す人は決まっているのですか?
バウ:先ほども申し上げたようにChromeの開発はオープンな環境で行われているので、誰か特定のリーダーが開発をコントロールしているわけではなく、リリースについても誰が決めるというのはありません。とにかくセキュリティ重視で、スケジュールに合わせてどれだけの機能が搭載できるかを全体でコントロールし、それがクリアできればリリースするという手順になっていてます。
編集部:開発にはどのぐらいの人数が関わっていますか?
バウ:Googleのクライアント・チームとしてソフト開発に関わっている人間が数十名いますが、それ以外にThe Chromium Projectsを通じてオープンソース業界の人達や、Chromeに関心のある一般の方達も参加していますので、具体的な人数というのはちょっとわかりません。ブラウザを作る技術を持っている人なら誰でも参加することができます。対象は、安定版、ベータ版、開発版、Canary Build(カナリアビルド)に分かれていて、最後の方がより実験的なバージョンになるので、関わるには上級技術が必要になります。
編集部:開発者がオープンな環境で行われているのはわかりましたが、エンドユーザー向けにもオープンに意見が投稿できる場所はありますか?

バウ:Googleでは製品全体に対するユーザーからの質問をヘルプフォーラムで受け付けていますが、その中にChromeの場所も用意されています。さらにその中で項目を分けて、利用方法に関する質問から問題の報告、さらに提案・要望についてもリクエストを受け付けています。日本語で投稿できますし、その中で「解決済み」と付いたものの中には、投稿された意見を参考に製品に反映されたものもいくつかあります。
編集部:一般的な使い方についてもこちらで質問できるのですね。
バウ:Googleからの回答の場というよりも、ユーザー同士がコミュニケーションを行う場のような位置づけになっていて、Googleの社員がコメントすることもありますし、他のユーザーが対応してくださる場合もあります。私自身もヘルプフォーラムに参加してよくコメントしていますが、幸いにもたくさんの方々が協力してくださっていて、スムーズに運営されているのではないかと思います。
編集部:Chromeの拡張機能は専用のChrome ウェブストアで提供されていますが、有料版も発売されていて、今後はそうした需要は拡がると考えていますか?
バウ:まだ有料版の製品は少ないのですが、市場として需要はあると思います。主にアプリケーションですが、ゲームなどを中心に有料でも売れるものが登場する可能性は高いでしょう。
編集部:アプリをダウンロードして購入するというとスマートフォンを思い出すのですが、そういえばAndroid版のChromeはリリースされていませんね。
バウ:Androidのブラウザも同じWebKitをベースとしているので、共有しているコードはたくさんあります。Chromeの良いところをAndroidのブラウザにもフィードバックしていますが、まだ何かを発表できる段階にはありません。
編集部:Chrome OSを搭載したタブレットが発売されるという噂が以前からありますが、これらの開発とブラウザ開発は関連しているところがあるのでしょうか?
バウ:Chrome OSもThe Chromium Projects の中で、Chromium OSというオープンな環境での開発が進められていますが、基本的にブラウザとは別に開発が行われています。Chrome OSの搭載機がどこからいつ発売されるのかについては、私が今コメントできることではありませんが、将来的にはノートブック以外の製品へ搭載される可能性も高いと思います。
編集部:Chromeはリリースから順調にシェアを伸ばし続けています。
バウ:具体的に調査を行ったりしているわけではないのですが、シェアについて私たちが言えるのは、今年でリリース3年目を迎えて、ユーザー数は2億人以上になっていること。この数字は昨年5月の7400万人から3倍弱になっています。

編集部:ユーザー増加の一因としてはTV CMやキャンペーンの展開で一般ユーザーへのアピールがうまくいっていることがあると思うのですが、その点についてはどう思われますか?
バウ:キャンペーンはマーケティングを担当する部署と開発担当者が会議で意見交換しながら内容を決めていますが、シェア獲得のためにこれをしよう、などと意識しながら考えることはありません。ユーザー数の増加に何か要因があるとすれば、Webの進化というのが1つのポイントになっているかもしれません。
GoogleではChromeの3周年を記念して、ブラウザ業界とそれをとりまく技術が進化する過程をインフォグラフィックにして公開していますが、それを見ていくとここ最近でWebの進化が加速しているのがわかります。こうした流れに対して、Chromeは3つのSに焦点を置いて開発を続け、速いペースで最新版を提供することで、ユーザーが常に新しいWebの世界を体験できるようにしてきました。そうした点が評価されているのかもしれません。
編集部:編集部では今までいくつかのブラウザ開発担当者にインタビューしてきましたが、いずれも「Web標準化の実現を目指す」、「ユーザーに最高のWeb体験を提供する」といった目標を掲げられていて、基本的に開発目標が同じでした。今後どのブラウザも同じ方向に向かっていくのでしょうか?
バウ:ブラウザを開発している技術者は普段からコミュニケーションをとっていて、標準化についてはW3Cがコントロールしていますが、そうした場で話しあう以外に、意見交換をする定例ミーティングを行ったり、場合によっては個人同士がチャットで話し合ったりもします。そういう意味では、開発目標は似てくるのかもしれません。また、ブラウザの見た目であるユーザーインターフェイスは製品の10%しか占めておらず、見た目についてはそれほど大きな違いはなくなっていく可能性はあります。
しかし、本質的な違いはバックエンドであるエンジンといった見えないところによるものが大きいため、違いはそれぞれの製品の使い勝手に表れてくると思います。
インターネットにしても実態はパソコンの中にあるわけではなく、ネットの向こう側にあるコンテンツをブラウザを通じて見ているだけです。ですから、その窓口となるブラウザが、見たいものをちゃんと表示し、使いたいアプリケーションをちゃんと使えるようにするのが、開発で最も大切だと考えています。この開発目標が共有されていることは、最終的にはすべてのユーザーのためになるのです。
Googleという企業が開発しているイメージの強いGoogle Chromeですが、直接開発に携わっている中の人たちは、オープンなスタイルで開発に携わっており、そこでより理想的なブラウザのあり方を目指しているというプライドを感じさせられました。どんどん進化していくWeb標準技術をより使いやすい形で、インターネットに不慣れなユーザーに対してもわかりやすく提供しようというスタンスが伝わるところもあり、こうしたところがChromeのシェアを拡大している理由の一つなのかもしれません。
[Google Chrome公式サイト、Google Chrome公式ヘルプフォーラム]
(野々下裕子)
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