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印南敦史印南敦史  - ,,,,,  06:30 AM

「物欲なき時代」だからこそ、ライフスタイルが重要な意味を持つ

「物欲なき時代」だからこそ、ライフスタイルが重要な意味を持つ

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もはや音楽を聴くためにCDを所有する必要はないし、車が必要なのであればカー・シェアリングを利用すればいい。それどころか住まいだってシェアすることが可能で、さらには3Dプリントやカスタマイゼーションも、これからの社会にとって重要な意味を持つはず。

あらゆるインフラが整備された現代において、そんな漠然とした思いを抱いている方は決して少なくないはず。それは、『物欲なき世界』(菅付雅信著、平凡社)の著者も同じであるようです。

食に関すること以外は、欲しいモノはもっと少なくていい、そう感じている人が多くなっている実感がある。ここではその状態を「物欲レス」と呼ぼう。そう思うようになってくると、いろいろな価値観が揺らいでくる。欲しいモノがあまりない世界というのは、何を目標とすればいいのか。その世界では何が幸福と見なされるのか。実は消費と幸福は無理矢理結びつけられていたのではないか等々。(「まえがき 欲しいモノがない世界の時代精神を探して」より)

本書において著者は、各分野のさまざまな人に話を聞き、多くの文献や資料に目を通しています。目的は、モヤのような気配を"時代精神"として浮かび上がらせたいと考えたからだといいます。

では、いま私たち、そして私たちを取り巻く社会の、なにがどう変化しようとしているのでしょうか? ある意味ではもっとも重要な部分であるといえる「ライフスタイル」について触れた、「1『生き方』が最後の商品となった」のなかから答えを探し出してみましょう。


ライフスタイルを売る時代


いま、いちばんメディアで語られている単語のひとつは「ライフスタイル」。この章の冒頭に、著者はそう記しています。それは同時に、本書全体にとっても大きな意味を持つ視点でもあるでしょう。なぜならライフスタイル・ブームとは、消費社会の成熟を示すものだから。現在の社会において、人は単に商品をほしがるのではなく、商品にまつわる物語や生活提案を求めているということ。

だからこそ商品だけを売るのではなく、"商品にまつわるライフスタイル"を提案する必要がある。現にアップルストアや蔦屋家電は、その考え方をかたちにしています。ライフスタイルは現代において、新たな、そして巨大な消費のジャンルになりつつあるということです。

さて、ここであえて「ライフスタイル」という言葉の定義を再確認してみましょう。いうまでもなくそれは、「ライフ(生命、人生)」の「スタイル(様式)」。この言葉を最初に使ったのは、先ごろ日本でも話題になったオーストリアの心理学者、アルフレッド・アドラーだというのですから少し意外ですが、つまりはかなり古くから認知されていたことになります。

でも著者は、この言葉のあり方が漠然としていることを指摘してもいます。「美しく主体的なことなのようでありながら、実は巧妙なマーケティングの戦略に乗せられているだけのよう」だとも。それが、21世紀の10年代におけるライフスタイルという言葉の立ち位置だというわけです。(10ページより)


ライフスタイル・マガジンの勃興


次に紹介されているのは、内外で急増するライフスタイル・マガジンの現状です。とりわけクローズアップされているのは、「ライフスタイル先進都市」として知られる米オレゴン州ポートランドで2011年に創刊された『キンフォーク』。

世界的に注目され、2013年には日本語版も創刊された同誌は、広告が一切なく、テキストも少なめ。美しい写真やテキストが写真集のようにレイアウトされた、食を中心としたライフスタイルを紹介する雑誌です。そして、そのコンセプトは、「友人や隣人たちと集まって、みんなでシンプルな料理や食事を楽しみ、そこで生まれる会話や人との結びつきを大事にすること」。

「現在、人々はメールやフェイスブックなど、多くの時間をコンピュータとともに過ごしていて、そのような生き方の姿勢が問われていることを誰もが実感している。実は、それこそが『キンフォーク』が人々に読まれている理由のひとつではないかと思う。『キンフォーク』が、コンピュータから離れた大事なことを人々に思い出させ、実際に手を動かすこと、触れられることに対する評価が高まっているんだ」(15ページより)

同誌の編集長であるネイサン・ウィリアムス氏のこの言葉は、現代の「ライフスタイル」のあり方そのままだといえるのではないでしょうか。(13ページより)


ファッションへのこだわりが食や雑貨に向けられた時代


『キンフォーク』だけではなく、インディペンデントなライフスタイル・マガジンは世界で急増中。そして興味深いのは、そのような流れが既存メディアにも影響を与え、既存の雑誌もライフスタイル化しているという点です。たとえばその例として取り上げられているのが、ファッション誌『HUgE』の劇的な変化。エッジの効いた男性ファッション誌であったはずの同誌は、2012年8月号で「食べる つながる」という特集を組んだのです。

この変化に驚いた著者は、当時の『HUgE』ディレクターだった右近亨氏にインタビューを試みているのですが、ここでの右近氏の回答が、まさに新たなライフスタイルの到来をいい表しています。

「海外でのファッション・シューティングのために現地でモデルを探すとき、昔はクラブに探しに行っていました。しかし、一昨年サンフランシスコに行き、サードウェーヴ系のコーヒーショップを訪れると、店員もお客もとにかくかっこよく、僕たちはそこでいろいろなモデルをハントしていたのです。(21ページより)

氏によれば、コーヒーショップのオーナーは、ファッション・デザイナーやセレクトショップの経営をしていてもおかしくないようなファッション感覚を持っていて、自分たちが毎日飲むコーヒーに関しても"こういうスタイルで、こういうときはこういう椅子で、こういう空間を演出するのがかっこいい"という考え方を持っているのだそうです。

「彼らに友達を紹介してほしいと頼むと、近所のチョコレート工場のおじさんがかっこいいよと、やはり同じような空気感でかっこいい人を教えてくれる。そうしたつながりを見たとき、ファッションとライフスタイルがほぼ同じだと思ったのです。誰かから教えられたり、押し付けられたものでもなく、自分が選んだもので、自分だけの良い空間、良い生活があれば良いという考え方が芽生えてきている」(22ページより)

そのような価値観の変化を大きな流れだと捉え、その延長線上に『HUgE』のリニューアルがあったということ。


ビームス設楽代表が語るライフスタイル・ビジネス


そして同じことは流通の世界にもいえるようです。ここでもさまざまな取材がなされていますが、なかでも特に注目すべきは、近年ライフスタイル傾向を強めているビームスの設楽洋代表取締役の視点。

氏がビームスを創業したのは、セレクトショップという言葉もなかった時代。当時は「きっとUCLAの学生はこんなモノを持っていて、こんな生活をしているのだろう」と思いながらモノを集めていたのだそうです。情報もモノもなかった時代だけに、知らない情報、見たことのないモノを提案してあげることが、セレクトショップの第一の役割だったということ。

「しかし、今は違います。数ある情報のなかから絞り込んであげることが我々の役目になりました。そういう意味で、セレクトショップは十貨店だと思っています。百貨店に行けば何でもあるけれど、自分にとっていらないものもあります。(中略)モノと情報が多すぎて、ある程度絞り込んでほしいのであれば、私たちの十貨店に来てほしいのです」(36ページより)

モノがあふれる時代に他者との差別化を図ろうとするなら、モノに頼ることはもうできないということ。モノと情報に飢えていた時代とは違って、いまはキーボードを叩けば"どこになにがあるか"が簡単にわかり、すぐ手に入れることができる。

そんな時代には、ひとつのモノを手にすることの喜びが薄くなっても当然。だから、「そのモノを買って手にすると、その先にどんな素敵な生活になるのか」というところまで提案する必要がある。先に触れたとおりの、「ライフスタイルを売る時代」だということです。(34ページより)




著者は、『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』などの編集長を務めてきた人物。本書の魅力は、そんな経験に基づいているのであろう緻密な取材にあります。ひとつのテーマについて多くの人から意見を聞いていった結果として、「物欲レス」な時代性が浮き彫りになっているわけです。


時代の空気を見事に切り取っており、非常に読み応えがある内容。新しい時代が訪れようとしていることに多くの人が気づいている状況だからこそ、ぜひとも読んでおきたいところです。


(印南敦史)

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